クーポンスワップ取引と証券会社による追加担保や解除清算金等についての説明義務違反(肯定)
東京地裁H28.4.15
<事案>
原告が、証券会社である被告との間で締結したクーポンスワップ取引を行う旨の契約(クーポンスワップ契約)について
無効(①公序良俗違反又は信義則違反、②錯誤)であり、
被告担当者の原告に対する勧誘行為が不法行為(①適合性原則違反、②説明義務違反)に該当すると主張
⇒
被告に対し、不当利得返還請求権(民法703条、704条)又は不法行為による損害賠償請求権(民法709条、715条)に基づき、
利得金ないし損害金等の支払を求める事案。
原告と被告の間では2件のクーポンスワップ取引(本件第1取引と本件第2取引)が締結されたが、原告に損害が生じた取引は本件第2取引
<判断>
証券会社である被告の担当者が顧客である原告に対して本件第2契約を勧誘したことについて、追加担保、解除清算金及び解約清算金(解除清算金等)に関する説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求を認容し(過失相殺6割)、原告のその余の主張をいずれも斥けた。
●適合性原則違反
判例:
株価指数オプションの売り取引の勧誘行為の適合性原則違反に関して、顧客の適合性を判断するに当たっては、当該金融商品の具体的な商品性を踏まえて、これとの相関関係において顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要があるという判断枠組み(最高裁H17.7.14)
①本件第2契約のうち、(i)スワップ取引に係る部分の仕組みや一般的なリスク等は、一定の経験と理解力を有する者には理解が困難なものであったとは認められない、(ii)追加担保や解除清算金等の具体的な算定方法等に係る部分については理解が困難であったがこれらが発生する可能性があること自体は理解できた
②原告は、それまでの通貨オプション取引等の取引経験から為替を組み込んだ金融商品や為替相場について、ある程度の知見を有していた
③原告は、一定程度の現金預金及び金融資産を有しており、相当期間にわたって多額の資産を投資し、複数の金融商品取引を並行して行っており、金融商品取引を積極的に行うことにより運用益を上げようとする投資意向があったといえる
⇒
被告の担当者が原告に対して本件第2取引を勧誘した行為は、取引の仕組みの一部については理解が困難であったものの、適合性の原則から著しく逸脱していたとまではいえない。
●説明義務違反
証券会社の担当者は、顧客に対して取引を勧誘するに当たっては、顧客の自己責任による取引を可能とするため、取引の内容や顧客の投資取引に関する知識、経験、資力等に応じて、顧客において当該取引に伴う危険性を具体的に理解できるように必要な情報を提供して説明する信義則上の義務を負う。
◎スワップ取引の説明
①被告の担当者は、原告に対し、本件第2取引の内容を詳しく説明した上、説明資料などを用いて種々のリスクがあることを説明し、リスクの確認を行っている
②原告はその説明を踏まえて、交換レートや目標相場のレートについて原告に有利になるよう交渉した上で、本件第2契約を締結
⇒
スワップ取引に係る部分の仕組みや一般的なリスク等については、原告の知識、経験、資力等に相応し、ある程度丁寧に説明をした。
◎追加担保及び解除清算金等に関する説明
追加担保及び解除清算金等に関する説明について、
①契約期間が10年間と比較的長期間であり、その間、原則として解約ができないこと、
②原告は、その事業規模に比して高額の追加担保が発生することにより運転資金を拘束され、スワップ取引を継続できなくなった場合には解除清算金等の支払義務が発生
⇒
被告の担当者は、原告に対して本件第2取引を勧誘するに当たり、単に追加担保や解除清算金等が発生する可能性があるという抽象的な説明をするだけでは足りず、追加担保や解除清算金等が、為替相場の変動に応じて、具体的にどの程度必要になるか理解できるように説明する義務を負っていた。
本件第2取引においては、個別の取引は、円/米ドル為替レートが123.50円(契約時為替相場)から108.90円(条件相場)までの範囲の円安で推移すれば原告いが利益を得る取引きであるが、追加担保は、契約時為替相場から5円以上円高になる(118.50円/米ドル)と、1000万円単位で必要になる
⇒この点についてはは注意が必要で、被告の担当者は、原告に対し、その点も含めて説明する義務があった。
①被告担当者による説明では、約定時の担保額が購入金額により増大することは想起できるが、単に金利為替の相場変動により追加担保が発生するという記載しかなく、本件第2取引に係る追加担保が必要となる場合やその金額などを具体的に想起させるような説明となっていない
②原告に交付された説明資料中の主なリスク項目を説明する部分において、追加担保が触れられていなかった
⇒
このような説明では、ある程度の金融商品に関する知識を有すると認められる原告であっても、追加担保に伴う具体的なリスクを理解することはできなかった。
解除清算金等の点について、被告の担当者による説明は、原告が解除清算金等を支払う可能性があることを想起させるものではあったが、解除清算金等の金額などを具体的に想起させるものではなかった
⇒
このような説明では、ある程度の金融商品に関する知識を有すると認められる原告であっても、解除清算金等に伴う具体的リスクや、1億円超える解除清算金等が必要になることを理解することはできなかった。
⇒
追加担保及び解除清算金等に係る説明義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求を認容。
判例時報2323
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