国税の担保として提供された不動産の公売公告の取消訴訟係属中に売却決定⇒訴えの利益(肯定)
東京地裁H27.7.17
<事案>
相続税の納税義務者であるXが、年賦延納の担保として自己の不動産を提供したが、分納期限までに分納税額を完納しなかった⇒延納許可を取り消された上、同不動産の差押えを受けてこれが公売に付された
⇒公売に付した財産の選択につき裁量権の逸脱又は濫用があるなどとして公売公告及び見積価額の公告の取消しを求めた事案。
本件公売不動産については、平成14年2月までに前記相続税を担保するための抵当権が設定⇒平成18年4月に差押処分⇒平成24年9月に公売公告(本件公売公告)及び見積価額の公告がされた上、本件訴訟の係属中である平成26年9月に売却決定(本件売却決定)がされ、配当が実施。
本件公売不動産のうち土地一筆については、平成19年12月にXからAに売却され、平成25年7月にXからAに対する所有権移転登記手続。
Yは、本件公売公告は一連の公売手続の終了によりその目的を達成して法的効力を失っている⇒その取消しを求める訴えの利益が消滅していると主張。
<規定>
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
<判断>
本件公売公告の法的効果については、Y主張のとおり、その目的を達成して失われている。
but
売却決定がされた場合でも、国税の担保として提供された不動産の所有者及び滞納者には、公売公告を取り消すことによって「回復すべき法律上の利益」(行訴法9条1項参照)がある。
⇒
本件公売公告の取消しを求める訴えの利益は、なお失われていない。
①所有者については、行訴法33条1項(取消判決等の効力)、税徴法135条1項(売却決定の取消しに伴う措置)等を根拠として、「売却決定がされるに至った場合でも、公売公告を取り消す旨の確定判決を得ることにより、その拘束力に従って売却決定を取り消し、差押不動産の所有権を買受人又は転得者から回復することを期待し得るという法的地位を有する」
②滞納者については、行訴法33条1項等を根拠として、「売却決定及び配当がされるに至った場合でも、公売公告を取り消す旨の確定判決を得ることにより、その拘束力に従って売却決定及び配当を取り消し、改めに適法な手続の下における売却決定が行われてより高額な売却がされることを期待し得るという法的地位を有する」
⇒
「回復すべき法律上の利益」を有する。
<解説>
最高裁は、処分の取消しを求める訴えの利益(広義)について、仮に当該処分の取消判決がされた場合に、拘束力(行訴法33条1項)の作用として不整合処分の取消義務が生ずる場合には、これを肯定する傾向。
公売公告の違法性は、後行する売却決定に承継されるところ、一連の手続を構成する先行処分と後行処分との間に違法性の承継が認められる場合には、いずれの取消しを求めることもできると解する見解が有力。
担保不動産競売(民事執行)においては、売却許可決定により「自己の権利が害されることを主張するとき」に限り、同決定に対して執行抗告をすることができる(民執法188条、74条1項)ところ、
債務者兼所有者が同要件を充たすのは、売却自体が許されなかった場合(同法71条1号)又は当該瑕疵がなければより高額に売却された可能性がある場合であると解されている。
本判決の控訴審は、結論は同じであるが、
「回復すべき法律上の利益」の内容について、本判決とは異なり、所有者及び滞納者のいずれについても「改めて適法な公売公告の下に売却決定に至る一連の手続が行われることを期待し得る法的地位」であると解している
。
判例時報2322
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