社会福祉法人の退任理事の、処分行政庁の行った仮理事選任処分の取消し訴訟を提起することの原告適格(肯定)
広島高裁H27.10.28
<事案>
本件社会福祉法人内部で理事同士の対立⇒後任理事が決まらないまま全ての理事が任期満了⇒理事が存在せず⇒処分行政庁が、社会福祉法39条の3に基づき、職権で、仮理事を選任する処分。
任期満了で退任した理事の1人(理事長)Xが、
①本件仮理事選任処分の取消しを求めるとともに、
②同処分前にXが仮理事選任申立てをしていたところ、その申立ての中で仮理事候補者に挙げていた者を仮理事に選任することの義務付け(行訴法3条6項2号)を求めた
<規定>
行訴法 第3条(抗告訴訟)
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
行訴法 第9条(原告適格)
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
2 裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。
民法 第654条(委任の終了後の処分)
委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。
<解説>
社会福祉法人の役員の任期は2年(社会福祉法人法36条2項(H28改正前))、同法39条の3は、利害関係人の請求又は職権による、所轄庁による仮理事選任を規定。
<争点>
①本件選任処分の違法性
②訴訟要件に関し、Xが本件仮理事選任処分の取消訴訟を提起するに当たり原告適格(行訴法9条1項の「法律上の利益」)を有するか。
③任期満了で退任した理事Xが、仮理事船員を請求できる「利害関係人」に当たるか
<原審>
Xの訴えのうち、本件仮理事選任処分の取消訴訟が原告適格を欠く不適法な訴えであり、ひいては義務付訴訟の不適法になる⇒Xの訴えをいずれも却下。
<判断>
取消訴訟及び義務付け訴訟のいずれもXの原告適格を認め(訴えの利益も肯定し)原判決を取り消して原審に差し戻した。
退任理事も、民法654条の類推適用により、急迫の事情があるときは、正式な仮理事ないし理事の選任がされるまでの間、理事として必要な処分をしなければならない義務を負っており、その義務を怠れば第三者から損害賠償を求められるおそれ⇒仮理事選任を請求することにつき法律上の利害関係を有する。
処分行政庁はXからの仮理事選任請求に直接応答せず、職権で本件仮理事選任処分をしたが、この処分は選任請求と目的を同じくし、また、これを端緒にされたもの⇒Xからの仮理事選任請求に対する処分行政庁の応答の趣旨を含むと認めるのが相当⇒選任請求をしたXは、本件仮理事選任処分の相手方ないしこれに準ずる地位にある。
⇒
Xは、具体的な事実関係の下でその権利、利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれがないという特別の事情がない限り、本件仮理事選任処分の取消しを求めるについて法律上の利益を有する。
判例時報2321
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