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2017年4月27日 (木)

公開買付け⇒全部取得条項付種類株式として全部取得する場合の会社法172条1項にいう「取得の価格」

最高裁H28.7.1      
 
<事案>
Xが、会社法172条1項に基づき、全部取得条項付種類株式の取得の価格(取得価格)の決定の申立てをした事案。 
 
<事実>
A社及びB社は、平成22年当時、大証JASDAQスタンダード市場に上場中のY社の総株主の議決権の70%以上を直接又は間接に有していた。

A社及びB社は、Y社の株式を両社で全部保有することなどを計画⇒
A社、B社ほか1社は、平成25年2月26日、買付予定数を180万1954株、買付期間を同月27日から同年4月10日まで(30営業日)、買付価格を1株につき12万3000円(本件買付価格)として、Y社発行の普通株式(本件株式)及びY社の新株予約権(本件株式等)の全部の公開買付け(本件公開買付け)を行う旨、
本件株式等の全部を取得できなかったときは、Y社において本件株式を全部取得条項付種類株式とした上でこれを本件買付価格と同額で取得する旨を公表。

Y社は、前記の公表に先立ち、
本件公開買付けに関する意思決定過程からA社及びB社と関係の深い取締役を排除し、両社との関係がないか、関係の薄い取締役3人の全員一致の決議に基づき意思決定をした。

法務アドバイザーであるC法律事務所から助言を受け、財務アドバイザーであるD証券会社から、本件株式の価値が1株につき12万3000円を下回る旨の記載のある株式価値算定書を受領するとともに、本件買付価格は妥当である旨の意見(いわゆるフェアネス・オピニオン)を得ていた。

有識者により構成される第三者委員会から、本件買付価格は妥当であると認められる上、株主等に対する情報開示の観点から特段不合理な点は認められないなどの理由により、本件公開買付けに対する応募を株主等に対して推奨する旨の意見を票ねいすることは相当である旨の答申を受け、同年2月26日、同答申のとおり本件公開買付けに対する意見を表明。

平成25年6月28日に開催されたY社の株主総会及び種類株主総会(本件総会)において、公開買付けにおいて公表された内容に沿った議案について決議がされ、同年8月2日、同決定に基づく定款変更の効力が生じ、Y社は、同日、全部取得条項付種類株式の全部を取得。

XらはY社の株主であった者であるが、本件総会に先立ち、前記決議に係る議案に反対する旨をY社に通知し、かつ、本件総会において、同議案に反対。
 
<規定>
会社法 第172条(裁判所に対する価格の決定の申立て)
前条第一項各号に掲げる事項を定めた場合には、次に掲げる株主は、同項の株主総会の日から二十日以内に、裁判所に対し、株式会社による全部取得条項付種類株式の取得の価格の決定の申立てをすることができる。
一 当該株主総会に先立って当該株式会社による全部取得条項付種類株式の取得に反対する旨を当該株式会社に対し通知し、かつ、当該株主総会において当該取得に反対した株主(当該株主総会において議決権を行使することができるものに限る。)
二 当該株主総会において議決権を行使することができない株主
2 株式会社は、裁判所の決定した価格に対する取得日後の年六分の利率により算定した利息をも支払わなければならない。
 
<原々決定>
・・・その後の各種の株価指数が上昇傾向にあったことなどからすると、取得日までの市場全体の株かの動向を考慮した補正をするなどして本件株式の取得価格を算定すべきであり、本件買付価格を本件株式の取得価格として採用することはできない。
⇒Xらの申立てに係る本件株式の取得価格をいずれも1株につき本件買付価格を上回る1株当たり13万206円にすべきもの。
 
<原決定>
抗告許可の申立て
⇒裁判所の合理的な裁量の逸脱をいう部分について抗告を許可。
 
<判断>
Y社の論旨に沿って原決定を破棄し、原々決定を取り消して本件株式の取得価格を本件買付価格と同額の1株当たり12万3000円とした。

株式会社の株式の相当数を保有する株主が当該株式会社の株式等の公開買付けを行い、その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし、当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において、
独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど当該株主又は当該株式会社と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ、公開買付けに応募しなかった株主の保有する前記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額の取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により前記公開買付けが行われ、その後に当該株式会社が前記買付け等の価格と同額前全部取得条項付種類株式を取得した場合には、
前記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り、
裁判所は、前記株式の取得価格を前記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当
である。
 
<解説>
●裁判例では、最高裁H21.5.29で田原裁判官が補足意見で示した整理に従い、
①MBOが行われなかったならば株主が享受し得る価値(客観的価値)と
②MBOの実施によって増大が期待される価値のうち株主が享受してしかるべき部分(増加価値分配価格)
とを合算することにより株式価値を算定する一方で、

一連の取引が公正な手続により行われたかどうかを審理判断し、これが認められる場合には、裁判所が独自に算定した株式価値と一定以上の乖離がない限り、会社法172条1項にいう「取得の価格」として公開買付価格と同額を決定するものが多い。 
 
●本決定 
本件のような典型的なキャッシュ・アウト取引では、
①買収者と対象会社との交渉合意により全部取得条項付種類株式の取得の対価を含めて取引条件が決定され、②当該取引条件が株主や市場参加者向けに公表されて公開買付けが実施され、②その後の全部取得条項付種類株式の取得等の会社法上の行為も前記取引条件を前提として行われるという実務の実情

一般に公正と認められる手続を通じて前記取引条件が定められた場合において、同条件どおりにキャッシュ・アウト取引を行われたときは、裁判所は、公開買付価格をもってキャッシュ・アウト取引完了までの事情変更可能性を前提に多数株主と少数株主との利害が適切に調整された取引条件であるものと解し、これを参照した取得価格を決定するのが原則である旨の判断。
~少数株主の利益に配慮した実務上の運用が適切に行われた事案において当事者が自主的に定めた取引条件を尊重してきた下級審裁判例を是認するとともに、本決定の趣旨に沿った適切公正な企業再編等の促進を期待。

●2段階のキャッシュ・アウト取引では、
公開買付けにより総株主の議決権の9割以上を取得した場合には同法により新設された特別支配株主による株式等売渡請求制度
9割未満にとどまった場合には同法による改正後の株式併合制度を利用して株式を全部取得する運用
が実務上定着。 

判例時報2321

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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