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2017年4月12日 (水)

違法なおとり捜査によるもの⇒再審開始

札幌地裁H28.3.3   
 
<主張>
新証拠によって、本件における捜査が違法なおとり捜査であることが明らかになった⇒確定判決が有罪認定に用いた各種証拠の証拠能力が否定されるべき⇒刑訴法435条6号所定の事由がある。 
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<判断>
次のようなおとり捜査であったことを認定:
銃器対策部門の警察官Aは、日頃からCら捜査協力者に「何でもいいからけん銃を持ってこさせろ。」と指示していた。
CのいとこDは、Aの意を受け、ロシア人船員であった請求人に対し、「けん銃があれば欲しい中古車と交換してやる。」と持ち掛けた。
これに応じた請求人は、父の遺品である本件けん銃等を日本に持ち込んだ。
A及び銃器対策課は、捜査協力者からその情報を入手し、Cらを使って請求人に本件けん銃等を船外に持ち出させ、請求人が中古車と交換するつもりで本件けん銃等をCに渡そうとしたところを現行犯逮捕。 

本件おとり捜査には、令状主義の精神を潜脱し、没却するのと同等ともいえるほど重大な違法がある⇒本件おとり捜査によって得られた証拠は、将来の違法捜査抑止の観点からも、司法の廉潔性保持の観点からも、証拠能力を認めることは相当ではない
②少なくとも、現行犯逮捕によって得られた本件けん銃等の証拠物、それらの鑑定書及び逮捕時の状況に関する捜査報告書等は証拠排除されるべき
⇒請求人の自白を補強すべき証拠がないことになる⇒結局犯罪の証明がないことに帰する⇒刑訴法435条6号に基づいて再審開始。
 
<解説> 
●おとり捜査の適法・違法の判断 

A機会提供型B犯意誘発型に二分し、前者を適法、後者を違法とする傾向

最高裁H16.7.12:
「少なくとも、直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われるものを対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容されるものと解すべきである」と判示し、前記の二分論を一定程度受容しつつ、他の要素も考慮した上で、当該おとり捜査を適法と判断。

本決定:
本件おとり捜査について、「典型的な犯意を誘発するタイプのものと位置づけられるので、その適否を慎重に見極める必要がある」とした上で、
具体的に、働き掛けの誘引力の強さ、請求人の属性(武器の密輸商でないことなど)を検討し、
続いて、具体的状況における銃器犯罪摘発の緊急性、おとり捜査の必要性などについて検討を進め、
最高裁決定が示す判断の枠組みに沿って判断。

判例時報2319

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