« 「パフォーマンスの精神」 | トップページ | 「組織と個人」 »

2017年4月 3日 (月)

仲裁人の忌避事由に関する開示義務違反⇒仲裁裁判取消事由に該当するとされた事例

大阪高裁H28.6.28      
 
<事案>
Xらが、Xら及びYらとの間の仲裁判断につき、仲裁法44条1項4号、6号または8号の取消事由があるものと主張して、仲裁判断取消申立てをした事案。 
 
<事実>
Xら:アメリカ合衆国テキサス州に本店を置き、空調機器の販売等を目的とする会社
Yら:電気機器の製造・販売等を目的とする会社 
両者間には、YらがX1に空調機器を納入する旨の売買契約
その後Yらが同契約の解除の意思表示
⇒その適法性などをめぐって紛争。

平成23年6月16日、Yらは、Xらを相手方として、同契約の仲裁条項に基づき、Yらに契約上の義務違反がないことの確認等を求めて、日本商事仲裁協会(「JCAA」)に仲裁申立て。

Yらは、Aを仲裁人に選任
Xらは、所定の期間内に仲裁人の選任をしなかった⇒JCAAがYらに代わってBを仲裁人に選任
平成23年9月20日、A及びBは、長たる仲裁人としてCを選任。 

Cは、D法律事務所シンガポール・オフィスに所属する弁護士であるが、その仲裁人への選任に際してJCAAに公正中立表明書を提出。
この表明書には、
①D法律事務所の弁護士が、将来、本件仲裁に関係はしないもののクライアントの利益が本件仲裁の当事者またはその関連会社と利益相反する案件において、当該クライアントに助言しまたは当該クライアントを代理する可能性があること、
②C自身は、仲裁の係属中かかる職務に関与することも、かかる職務の情報を与えられることもない
などを記載した付属文書が添付。

本件仲裁手続きが開始された当時、
Y1と完全兄弟会社の関係にあるE社を被告とするクラスアクション事件がアメリカ合衆国で係属しており(「別件訴訟」)、別件訴訟においてE社の代理人を務めていたF弁護士は、Cが本件仲裁における仲裁人に選任された当時には別の法律事務所に所属していたが、遅くとも仲裁手続の係属中である平成25年2月20日以降、D法律事務所のサンフランシスコ・オフィスに所属(「本件利益相反事由」)。
Cは、この事実を開示することなく、平成26年8月11日に、Yらの主張を概ね認める内容の仲裁判断。
Xらは、これに対して、Cによる開示義務違反が仲裁法44条1項6号または8号所定の仲裁判断取消事由に該当すると主張し、仲裁判断取消しの申立。
 
<規定>
仲裁法 第18条(忌避の原因等)
当事者は、仲裁人に次に掲げる事由があるときは、当該仲裁人を忌避することができる。
二 仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき。

3 仲裁人への就任の依頼を受けてその交渉に応じようとする者は、当該依頼をした者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実の全部を開示しなければならない。

4 仲裁人は、仲裁手続の進行中、当事者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(既に開示したものを除く。)の全部を遅滞なく開示しなければならない。

仲裁法 第44条
当事者は、次に掲げる事由があるときは、裁判所に対し、仲裁判断の取消しの申立てをすることができる。

四 申立人が、仲裁手続において防御することが不可能であったこと。

六 仲裁廷の構成又は仲裁手続が、日本の法令(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)に違反するものであったこと。

八 仲裁判断の内容が、日本における公の秩序又は善良の風俗に反すること。
 
<原決定>
本件利害相反事由は、Cの仲裁人としての公正性または独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(仲裁法18条4項、JCAA規則28条4項)に該当。
but
①別件訴訟は本件仲裁とは関連性のない事件であった
②C自身が別件訴訟に関する情報に接する機会はなかった

いまだCの仲裁人としての公正性または独立を疑うに足りる相当な理由がある(仲裁法18条1項2号)とまでは認められない。

①この事実の存在が仲裁判断の結論に影響を及ぼしたとは認められない
②本件付属文書についてXらが何ら異議を述べていなかった

開示義務違反が認められるとしても、その瑕疵は軽微なもの。

これが仲裁法44条1項6号に該当するとしても、仲裁判断を取り消すことは相当ではない。
 
<判断>
本件利益相反事実は、Cの仲裁人としての公正性または独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(仲裁法18条4項、JCAA規則28条4項)にあたる
②Cが別件訴訟に関する情報を一切与えられておらず、本件利益相反事由を知らなかったとしても、特段の支障なく調査することが可能であった以上、開示義務違反の責任を免れない
本件付属文書は、将来生起する可能性のある抽象的、潜在的な利益相反を表明したものにすぎず、これをもって本件利益相反自由についての開示義務を果たしたものとはいえない
④本件利益相反自由は仲裁人の忌避事由に該当する可能性がないとはいえないもので、その不開示は重大な手続上の瑕疵にあたる

裁量棄却は相当でない。 
 
<解説> 
●仲裁法18条1項2号は、
「仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき」
仲裁人の忌避事由とし、これを受けて、
仲裁人は、「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実の全部」について開示義務を負う(同条3項、4項)。
 
●国際仲裁の実務においてしばしば参照される国際法曹協会(IBA)のガイドラインによれば、
①仲裁人が所属する法律事務所が、当事者の関係会社との間で重大な商業上の関係を有することは、忌避事由に該当する放棄可能なレッドリストに、
②仲裁人が所属する法律事務所が、当事者の関係会社に対して、重大な商業上の関係を生じることなく役務を提供していることは、開示義務事由に該当するオレンジリストに該当。
同ガイドラインは、
仲裁人は利益相反の有無について合理的な調査の義務を負い、そうした調査を怠った場合には、利益相反事由を知らなかったことにより開示義務を免除されるものではないこと、
本件付属文書に類する事前通告や事前免除によっては、仲裁人の開示義務は免除されないこと
を定めている。

判例時報2319

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 「パフォーマンスの精神」 | トップページ | 「組織と個人」 »

判例」カテゴリの記事

民事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/132655/65101698

この記事へのトラックバック一覧です: 仲裁人の忌避事由に関する開示義務違反⇒仲裁裁判取消事由に該当するとされた事例:

« 「パフォーマンスの精神」 | トップページ | 「組織と個人」 »