危険運転致死罪の「その進行を制御することが困難な高速度」の判断
千葉地裁H28.1.21
<事案>
飲酒の上、自動車を運転した被告人が、第1事故を起こして逃走し、その被害者の追跡を気にして前方左右不注視のまま最高速度時速50kmの道を時速約120kmで走行⇒道路左側路外施設に向かい対向右折してきた原動機付自転車に衝突してその運転者を死亡させるという第2事故。
<規定>
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律
第二条(危険運転致死傷)
次に掲げる行為を行い、よって、人を負傷させた者は十五年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は一年以上の有期懲役に処する。
二 その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為
<解説>
危険運転致死傷罪における「その進行を制御することが困難な高速度」の意義については、
①速度が速すぎるために自動車を道路の状況に応じて進行させることが困難な速度をいい、
②具体的には、そのような速度での走行を続ければ、道路の形状、路面の状況などの道路の状況、車両の構造、性能等の客観的事実に照らし、あるいは、ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、自車を進路から逸脱させて事故を発生させることになるような速度をいう
とする裁判例が散見。
but
①と②は同じこととされており、事案判断においては、具体的に書かれた②の定義への当てはめをすることになる。
⇒①は定義として不要。
<判断>
被告人運転車両の速度は時速120kmと認定した上で、危険運転致死罪ではなく過失運転致死罪の成立を認めた。
危険運転致死傷罪における「その進行を制御することが困難な高速度」について、
「自動車の性能や道路状況等の客観的な事情に照らし、ハンドルやブレーキ操作をわずかにミスしただけでも自動車を道路から逸脱して走行させてしまうように、自動車を的確に走行させることが一般ドライバーの感覚からみて困難と思われる速度」と定義。
~
上記①を定義から外している。
危険運転致死罪の成否を判断するに当たって考慮すべき道路状況等に、路外施設とそこへ向かう車両の存在可能性等が入るか?
条文の語義、立法の経緯、過失運転致死傷罪との関係⇒ここでいう道路状況とは、道路の物理的な形状等をいうのであって、他の自動車や歩行者の存在等を含まない。
<解説>
宮﨑地裁H24.10.29:
テストコースであれば時速約160kmで走行することができるが、歩行者や脇道からの車両等の侵入があり得る一般道路であれば安全に進行できるのは時速約100kmであるとの証言を
「周囲の状況から発生が予想される種々の危険性に対処するための心理的な要素を考慮することは相当ではない」と批判しており、本判決と同様の考え方。
判例時報2317
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