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2017年3月30日 (木)

公務執行妨害罪で保護される適正な職務

東京高裁H27.7.7      
 
<規定>
刑法 第95条(公務執行妨害及び職務強要) 
公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
 
<判断>
公務執行妨害罪によって保護される適正な職務には、分掌事務に直接該当するものに限られず、当該事務を円滑に遂行するため、これを阻害する要因を排除ないし是正することも、相当な範囲にとどまる限り、本来の職務に付随するものも含まれる。 
本件当日の被告人の振る舞いは、保護課職員を萎縮させて保護の適正な執行を阻害するおそれがあるものであった⇒これを是正するため被告人に対し謝罪を求めた行動は、被害者の本来的な職務に付随するものとして、法令上の根拠を有する
被告人がそれまで職員に対し恫喝的な態度をとってきており、これに対し注意、説得する必要があった⇒被告人に謝罪を求める行為が必要性、相当性を欠くものとまでは認められない
 
<解説>
刑法95条1項にいう職務は、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれる。(最高裁昭和53.6.29) 

●公務執行妨害罪によって保護されるべき職務に当たるかどうかが問題となるのは、当該公務員が、本来的に担当する事務ではなく、これに付随する事務を行っていた際に暴行脅迫を受けたケース。

路上で、被告人の吐いた唾が交通整理等をしていた警察官にかかったことから、その警察官が職務質問をするため、胸元をつかみ歩道上に押し上げた行為は、職務質問に付随する有形力の行使として当然許されるとしたもの(最高裁H1.9.26)。

公務執行妨害罪によって保護の対象となる職務の執行は、抽象的・包括的に捉えられるべきものではなく、具体的・個別的に特定されていることを要する(最高裁昭和45.12.22)が、一般的職務権限内の行為であれば、内部的な事務分担については問わないというのが大勢。

港湾建設局事務所の事務室で、工務課調査係長が上司の命により専門官の職務に相当する事務に属する研究のため参考文献を読んでいたところ、暴行を加えられた事案で、
公務員の職務の執行と認められるためには、法令上当該公務員にその行為をする一般的職務権限があることを必要とするが、その職務内容は必ずしも法令で具体的に規定されたものであることを必要としない
一般的権限を有する以上、単に職務執行上の便宜に基づいて定められた内部的事務分担のいかんは、職務権限の有無に影響を及ぼさず、
更に、一般的職務権限は当該公務員の独立の権限たることを要せず、上司の指揮・命令によって事務を執り行う場合であっても差し支えない。
(神戸地裁昭和37.3.19)

郵政事業職員の職務分類上の内務職員とされる集配課主事が、外無職の職務である郵便物の大区分作業をしていたところ、暴行を加えられた事案につき、被害者の職務執行は適法性を欠くとの主張に対し、被害者が必要に応じて本来の所掌事務ではない郵便物区分作業を行うことは組織規定上も違法とはいえないのみならず、上司の職務命令によって事務応援として前記作業を行うことができることも当然であって、本件においては、上司の職務命令によって郵便局の大区分作業を担当するに至ったものであるから、その職務執行は適法(東京高裁)。

内部的な事務分担自体が適法なものでなければならないのは当然。 

税関職員が繋留中の外国船内において所持品検査をしたところ、反則違反の現行犯と認め、連行していく際に暴行を加えられた事案につき、
税関職員は職務上犯則事件の現行犯人を逮捕する権限を認められた規定はなく、税関監視部長の命により内部的に実施されている職務分掌規程中反則違反の現行犯に対し同行を求め得ることを定めたことは何ら法令上の根拠に基づくものではない。
税関職員に同行を求める法令上の職務権限があるとは認められないのみならず、任意の同行を逸脱し、半ば強制的に連行した場合に当たる
公務員の職務の執行に当たらない(大阪高裁昭和34.5.4)

判例時報2318

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