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2017年3月15日 (水)

被害者とされた少女の新供述により再審が開始され無罪とされた事案

大阪地裁H27.10.16    
 
<事案>
被告人が同居していた養女に対して、強制わいせつ行為を行い、あるいは、複数回強姦行為に及んだという公訴事実につき、有罪の確定判決をを受けた被告人の再審無罪事件。
平成27年2月27日に再審開始と刑の執行停止が決定。
平成27年10月16日に本無罪判決が言い渡された。
再審の開始については、検察官も、再審を求める意見を述べており、再審開始決定が出る前に、検察官において、刑の執行を停止し被告人を釈放。
 
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕 
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。

二 原判決の証拠となつた証言、鑑定、通訳又は翻訳が確定判決により虚偽であつたことが証明されたとき。

六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 
<問題点>
近時再審請求が認められ、無罪判決が出される事件が散見されるが、多くは、客観的な鑑定の結果等が大きな理由。 
供述の信用性について、刑訴法435条2号の「証言・・・が確定判決により虚偽であったことが証明され」るということは容易に想定し難い。
このような場合も、同条6号により再審の途が開かれることになる。

6号の場合、証拠に新規性が要求されるが、「新規性」とは、証拠資料としての未判断資料性であり、①確定審には登場しなかった証人の証言に新規性が認められることはもちろん、②確定審で証言した証人がその証言を変更した場合にも新規性が認められ、③被告人が確定審でした自白を覆した場合も同様。
 
<解説>
●再審請求の途を開いたのは、確定判決の最大の根拠となった被害者とされる少女と犯行を目撃したとされるその兄が、いずれも、確定審で供述した内容は虚偽で実際は、犯罪行為はなかったとの供述をするに至ったこと。 
実母とその夫から厳しく問い詰められて、胸を揉まれたとか、強姦されたとかの虚偽の内容を認めざるを得なかった(本件少女)。
実母およびその夫から被害を見ていないはずはないと問い詰められ、目撃した旨の虚偽の話をしてしまった(本件兄)。

●本判決の指摘
各新供述が信用できる理由(本判決):
①二度の強姦後の時点で、少女の処女膜は破れておらず、被告人の本件少女への強姦の事実がなかったことを如実に示す
②本件両名は、自身が偽証罪に問われる危険を冒してまで、被告人が無実であると述べており、そこには虚偽供述をする事情が見当たらない
③旧供述において虚偽供述をした理由や今回真実を述べるに至った理由について合理的な説明をしている

本件両名の旧供述の疑問点(本判決):
①被告人の母親や本件兄のいる部屋の隣や廊下で各犯行に及んだという犯行発覚の可能性からみた不自然さ
②被害時期についての供述の変遷:
被害少女が被害時期を1年前に変え、同時に本件兄も、全く別の理由で1年前のことと供述を変遷させている⇒本件兄の迎合が強く疑われる。

●確定判決での判断 
①本件少女に虚偽供述を行う利益や動機がないことを相当重視。
②本件少女の母親が、中学生頃からという年若くして被告人と性的関係を有しながら、結局は結婚してもらえなかったことを恨みに思っている可能性も検討しながら、結論においてはそのような恨みの影響はないと否定。

③基本的に、本件少女の供述の信用性を肯定。
たとえば、犯行発覚の可能性については、「常識的に考えれば、被害少女に叫び声を上げられて隣室の者等に犯行が発覚する可能性もあって、被告人がそのような状況の下で果たして強姦に及ぶのか疑問におもわれなくもない。」としつつ、強姦に及ぶ可能性が認められる根拠をいくつか説明をして、疑問を排斥。

④供述の変遷について、被害日時の特定の観点から、知人の結婚式の翌日という特定の仕方に着目し、その日が客観的な証拠によって一年遡ったとすれば、被害も一年前になるという説明を信用。
⑤本件兄の供述についても、本件兄は時期を明確に記憶していたわけではない⇒本件少女の供述の変遷に伴って同様に変遷があったとしてもさほど大きな問題ではないと評価。
⑥実母が、本件少女の強姦被害を疑い、本件少女を産婦人科医院に連れて行ったことが実母の証言で明らかになっているのに、その診断結果は証拠調べされなかった。⇒その診断結果が、確定審段階で明らかにされなかった。

●まとめ
①性的被害を受けたと訴える者の供述の信用し、しかも、14歳という年少者の供述の信用性が、誤判に結びついたもの。
②身内での犯行という要素が加わり、被告人と被害者以外の者の存在(本件少女の実母)が大きく影響。

①被害者供述の内容の吟味、
②その客観的裏付けの吟味
③当然あるべき事実が確認できない、又は反対事実が確認される契機を見逃してはならない。
④供述が誰に対してどのような形で出てきたのかという供述の出現経緯、その変遷等に何らかの誘導な歪曲が入り込む余地はなかったかを虚心坦懐に見極めることの重要性。

判例時報2316

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