起訴後の被告人の取調べについての供述調書の証拠能力が否定された例
東京地裁H27.7.7
<事案>
警察官が、起訴翌日以降被告人を呼び出して面会し、公訴事実に関する取調べを行い、自白を内容とする供述調書を作成。
検察官は、刑訴法322条1項前段による証拠採用を求めた。
<規定>
刑訴法 第322条〔被告人の供述書面の証拠能力〕
被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
<判断>
起訴後の被告人の取調べを適法なものとして許容すべき事情はなく、供述調書に録取された供述が任意にされたものでない疑いがある
⇒その証拠能力を否定し、証拠調請求を却下。
<解説>
●最高裁昭和36.11.21:
起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないが、これによって直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきではない
⇒第1回公判前に作成され、公判で被告人及び弁護人が証拠とすることに同意した供述調書を採用した原判決に違法はない。
最高裁昭和53.9.4:
起訴後の取調べは被告人の当事者たる地位にかんがみてなるべく避けなければならないとしつつ、第1回公判期日前又は検察官の冒頭陳述前の取調べであり、その取調べによって公判手続の進行に支障を生じたとか被告人の防御権を侵害したとかの事実は認められない⇒取調べを適法とした。
最高裁昭和57.3.2:
36年決定は、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調べを行うことができることを認めたものであり、起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないことを判示してはいるが、それ以上に、起訴後作成された被告人の捜査官に対する供述調書の証拠能力を肯定するために必要とされる具体的要件を判示しているとは解されない
●その後の裁判例~
起訴後の取調べはすべて許されないというのではないが、これが許されるためには、
①取調べを行う具体的な必要があること、
②取調べの前に被告人には刑訴法198条1項ただし書から導き出される義務(いわゆる取調受忍義務)がないことを告げ、被告人がこれを理解した上で取調べに応じるなど、その防御権を侵害しなかったことなどの事情が必要。
②については、取調室に出頭した被告人と捜査官との間で確認するやりとりがなされ、その旨が供述調書の冒頭に記載される扱いが定着。
<判断>
最高裁決定を踏まえ、被告人の訴訟当事者としての地位と事案解明のために証拠を保全する必要との調和の観点から検討し、
①被告人が起訴後の取調べについて当初拒否的な態度をとっていた、
②弁護人が取調べを許諾した事実がない、
③自白の任意性自体に疑いを生じさせる事情がある、
④取調べの方法や時期に不当な点がある、
⑤起訴後の取調べが必要不可欠なものではなかった
⇒
以上を総合して起訴後の取調べは適法なものではなかったと判断。
公判審理で被告人は公訴事実を否認していたが、判決は、被告人の供述調書以外の証拠によって被告人の関与を認定し、有罪を宣告。
量刑理由で、「被告人は不自然な弁解をしている。しかし、証拠上、組織内における被告人の地位や報酬額など詳しい事情は不明である」と言及。」
判例時報2315
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