不法装てん罪の故意
東京高裁H27.8.12
<事案>
被告人は、猟場で1発目の実包を発射し、 2発目を発射することなく狩猟を終えたが、2発目の実包が自動的に薬室に装てんされ、装てん状態が継続。
その後別の場所で被告人が引き金を引き、実包が発射。
⇒
検察官は2発目の発射の時点を捉えて、銃砲刀剣類所持等取締法違反(不法装てん)の罪で起訴。
<規定>
銃砲刀剣類所持等取締法 第10条(所持の態様についての制限)
5 第四条又は第六条の規定による許可を受けた者は、第二項各号のいずれかに該当する場合を除き、当該銃砲に実包、空包又は金属性弾丸(以下「実包等」という。)を装てんしておいてはならない。
<解説>
「装てんしておいてはならない」
~
装てんする行為自体を禁じているのではなく、装てんされた状態が若干の時間継続したときに本条違反が成立。
適法に実包等を装てんしたが、その後局面が変わって発射が許されない状況になったときは、直ちに銃砲から実包等を取り出さなければならない。
<判断>
①不法装てん財の故意が成立するためには、法定の除外事由がないのに実包が装てんされている状態が開始された時点で所持者がそのことを認識していることが必要とされるのであって、その装てん状態が維持されている限り、その後に所持者がそのことを失念・忘却しても故意は失われない。
②本件の被告人は、狩猟を終えた時点で実包が装てんされたままになっていることを認識していたと推認できる(2発目発射の際、被告人が意図的に引き金を引いたのだとしても、それはその時点で実包装てん状態のことを失念していたことを意味するに過ぎない)。
⇒
引き金を引いた時点において被告人に不法装てん罪の故意があったものと認められる。
<解説>
●自動車の保管場所の確保等に関する法律11条2項2号は、自動車が夜間に道路上の同一の場所に引き続き8時間以上駐車することとなるような行為を禁じる。
自動車を運転して帰宅した被告人が、後で運転するつもりで自宅前の路上に自動車を駐車したが、その後運転予定がなくなったのに車庫に入れず、そのまま翌朝まで8時間以上路上に放置した事案。
控訴審:
故意としては、当該自動車を最終的に駐車させた者において、駐車させる際に自己又は他人が法定の制限時間内に当該自動車を使用又は移動させる等その駐車状態を解消することの予測が立たないままこれを駐車させた後に前記のような予測が消失したのに、当初の駐車状態のまま放置することの認識があれば足りる。一旦上記のような認識を持った以上、その後、駐車状態についての認識を持ち続ける必要はない。
上告審(最高裁H15.11.21):
「本罪の故意が成立するためには、行為者が、駐車開始時又はその後において、法定の制限時間を超えて駐車状態を続けることを、少なくとも未必的に認識することが必要である」と解した上で、
自動車を使用する予定がなくなった時点において道路上に駐車させたままであることを失念していた旨の被告人の弁解を排斥して故意があったと認定するには合理的な疑いがある。
●物の所持を始めた後、そのことを失念・忘却していたケースについての裁判例
最高裁昭和24.5.18:
一旦所持が開始されれば爾後所持が存続するためには、その所持人が常にその物を所持しているということを意識している必要はないのであって、いやしくもその人とその物との間にこれを保管する実力支配関係が持続されていることを客観的に表明するに足るその人の容態さえあれば所持はなお存続する。
覚せい剤の所持について「一旦物を保管する意思でその物に対する実力支配関係が実現する行為をすれば、右関係が維持されている限り、所持人が右所持を忘却しても「所持」にあたると解する」(東京高裁昭和50.9.23)
覚せい剤の入った紙袋を持って電車に乗った被告人が、その紙袋を座席に置いたまま電車内を移動し、置き忘れたことに気付かないまま降車した事案について、
「所持」とは、人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為をいい、物理的に把持することまでは必要ではなく、その存在を認識してこれを管理し得る状態にあれば足りると解し
「車両を移動して以降、被告人は覚せい剤の存在自体を失念していた可能性が高い。原判決が認定した時点(=被告人が置き忘れて車内を移動していった後、紙袋に気付いた他の乗客が車掌に届けた時点)では、被告人が覚せい剤を車両内に保管していたとはいえない」
(東京高裁H14.2.28)
火薬類の所持について、「火薬類を所持していることの認識があった以上、その後の所持について常に意識している必要はなく、また、その後仮にその所持を失念していたとしても、いわゆる継続犯である不法所持罪の性質上、所持の認識を欠くことにはならない」(東京高裁H2.11.15)
判例時報2317
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