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2017年3月 6日 (月)

離職せん別金に充てるための、市の共済会に対する補助金交付が違法とされた事例

最高裁H28.7.15       
 
<事案>
鳴門競艇従事員共済会から鳴門競艇臨時従事員に支給される離職せん別金に充てるため、鳴門市が共済会に対して補助金を交付
⇒給与条例主義を定める地方公営企業法38条4項に反する違法、無効な財務会計上の行為であるなどとして、市の住民であるXらが、Y1及びY2を相手に、本件補助金交付当時の市長、市公営企業管理者企業局長に対する損害賠償の請求等をすることを求めた住民訴訟。 
 
<第1事件>
●原審
離職せん別金が退職金としての性格を有していることは否定できない。
but
臨時従業員の就労の実態が常勤職員に準じる継続的なものであり、退職手当を受領するだけの実質が存在。

本件補助金の交付が給与法定主義の趣旨に反し、これを潜脱するものとはいえず、本件補助金の交付に地自法232条の2の定める公益上の必要性があるとの判断が裁量権を逸脱、濫用したものとは認められない。

本件補助金の交付が違法であるということはできない。

●判断
①共済会から臨時従事員に対して支給される離職せん別金に充てるため、市が共済会に対してした本件補助金の交付が、地自法232条の2所定の公益上の必要性の判断に関する裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であると判断。

予算の調整を違法な財務会計上の行為として当時の市長に対して損害賠償請求を求める請求に係る訴えについて、住民訴訟の対象外の行為を対象とする不適法なものとして却下
 
<第2事件>
●原審
本件条例の制定経緯及び趣旨⇒
本件条例の制定・施行により、本件補助金を介して支払われた離職せん別金には地方公営企業法38条4項にいう条例の定めがあったことになる⇒本件補助金の交付は適法なものとなる。
⇒Xらの請求をいずれも棄却。
 
●判断
共済会から臨時従事者に対して支給される離職せん別金に充てるため、市が共済会に対してした補助金の交付が、本件条例の制定により遡って適法なものとなるとした原審の判断には違法がある
 
<解説>
●第1事件
地自法232条の2は、普通地方公共団体は「公益上必要がある場合」に寄附又は補助をすることができると規定。

様々な行政目的をしんしゃくした政策的な考慮が求められる⇒この点についての地方公共団体(最終的には支出の権限を有する長等)の判断は、特に不合理又は不公正な点のない限りはこれを尊重することが必要であり、地方公共団体の長等の裁量権の行使に逸脱・濫用がある場合に限り、当該寄附又は補助が前記の要件を満たさないものとして違法となる(最高裁H17.10.28)。

本件における離職せん別金の支給原因、計算式、実際の支給額の大きさ等⇒離職せん別金は退職金の性格を有する

①市から共済会に対して交付される補助金額の計算式が、共済会から臨時従業員に対して支給される離職せん別金の計算式と連動
②離職せん別金の原資に占める本件補助金の割合が約97%に及んでいた

市が共済会を経由して臨時従業員に対し退職手当を請求するために共済会に対して交付したものと評価するのが相当

地自法204条の2は、普通地方公共団体は法律又はこれに基づく条例に基づかずにはいかなら給与その他の給付も職員に支給することができない旨を規定。
地方公営企業法38条4項は、企業職員の給与の種類及び基準は条例で定めると規定。
but
①本件補助金の交付当時、臨時従業員に対して離職せん別金又は退職手当を支給することを定めた条例の規定なし。
②賃金規程においても退職手当の規定なし。
③臨時従事員は、採用通知書により指定された個々の就業日ごとに日々雇用されてその身分を有する者にすぎず、その雇用が継続するものではない。⇒給与条例の定める「勤務期間6月以上で退職した場合」の要件に該当しないことは明らか。
⇒臨時従事員が常勤職員又は非常勤職員のいずれに該当するかにかかわらず、給与条例に基づき臨時従事員に対して退職手当を支給することはできない。

市が共済会に対して離職せん別金に充てるために本件補助金を交付したことは、条例上の根拠なく実質的な退職手当を支給したものであって、地自法204条の2及び地方公営企業法38条4項の定める給与条例主義を潜脱する違法なもの⇒本件補助金の交付に公益上の必要性があるとの判断には裁量権の逸脱・濫用がある。

また、原審は、臨時従業員の就労実態等から本件補助金の交付を適法としているが、実質論により、条例の定めを欠く給与の支給を適法とすることはできない。

住民訴訟の対象となる行為
地自法242条の2第1項、242条1項において、
「公金の支出」、「財産の取得、管理若しくは処分」、「債務その他の義務の負担」又は「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」、すなわち財務会計行為に限られており、予算の調整はこれに当たらない

予算の調整を違法な財務会計上の行為として本件補助金交付当時の市長に対し損害賠償請求をすることを求める請求に係る訴え部分を不適法として却下
 
●第2事件
地方公共団体が条例に基づかずに給与等の支給をした場合であっても、その後に条例において当該支給の根拠となる規定を設けるとともに、既に行われた支給について当該根拠規定に基づいて支給されたものとみなす旨を定め、これを遡って適法とすることは給与条例主義の趣旨に反するものではなく、許される(最高裁H5.5.27)。

本件条例は、臨時従業員に退職手当を支給する旨を定めた上で、「この条例の施行の際現に企業局長が定めた規程に基づき臨時従業員に支給された給与については、この条例の規定に基づき支給された給与とみなす。」との経過規定(附則)を定める。
but
離職せん別金は、共済会の事業としてその規約に基づき臨時従業員に支給されたものであり、企業局長が定めた規程(企業管理規程)に基づいて臨時従業員に支給された給与に当たらない

本件条例の制定により臨時従業員に対する離職せん別金の支給につき遡って条例の定めがあったことになるとした原審の判断には、本件条例の解釈適用を誤った違法がある。

判例時報2316

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