« 「道徳と利益」 | トップページ | 「会社のパフォーマンスを定義する」 »

2017年3月17日 (金)

授益的行政処分に対する職権取消権の発生要件等

福岡高裁那覇支部H28.9.16      
 
<事案>
平成24年の地方自治法の改正により設けられた是正の要求(同法245条の5)又は指示(同法245条の7)についてのいわゆる不作為に関する国の訴えの初めての事例。

国土交通大臣であるXが、沖縄県知事であるYが沖縄防衛局が前沖縄県知事から普天間飛行場代替施設の建設のために受けた名護市辺野古沿岸域の埋立承認処分を取り消したことは公有水面埋立法42条1項及び3項並びに同法4条1項に反しているとして、Yに対し、地方自治法245条の7第1項に基づいて、前記取消処分の取消しを求めた(是正の指示)。
⇒Yが、同取消しをしない上、法定の期間内に前記是正の指示の取消訴訟をも提起しない(同法251条の5)
⇒同法251条の7に基づき、Yが前記是正の指示に従って前記取消処分を取り消さないという不作為の違法の確認を求めた訴訟。
(本件訴訟は、XのYに対する同法245条の8に基づく前記取消処分の取消しを命ずる訴訟とYのXに対する同法251条の5に基づく前記取消処分の執行停止処分(平成26年法律第68号による改正前の行政不服審査法34条)の取消訴訟の和解に基づいて、Xが前記是正の指示を行い、Yがそれに対して同法250条の13に基づき国地方係争処理委員会へ審査の申出を行ったあと、Yが前記是正の指示の取消訴訟(同法251条5)を提起しないために提起されたもの。)
 
<争点>
①前記承認処分のような授益的行政処分の職権取消権が発生する場合は原処分が違法である場合に限定されるのか、原処分に不当又は公的目的違反がある場合も含まれるのか、その発生要件の判断について裁量が認められるのか(=職権取消しの適法性の判断において、原処分の違法性を判断すべきか、あるいは、職権取消しにおける裁量権の逸脱・濫用の有無を判断すべきかに関わる争点)。
②公有水面埋立法4条1項1号の要件審査は外交・防衛に関する事項に及ぶのか、また、同審査はいかなる場合に違法とされるのか。
③ 同項2号の要件審査はいかなる場合に違法とされるのか。
④仮に前記承認処分についての職権取消権が発生した場合に、その取消権の行使は制限されるか。
 
<判断・解説>
●争点①について
授益的行政処分の職権取消権の発生要件について、自作農創設特別措置法の買収計画及び売渡計画に関して違法または不当を職権取消権の発生要件としていると思われる最高裁昭和43.11.7.

学説は、取消制限の問題と異なり、授益的行政処分と侵害的行政処分が区別されておらず、多数説は原処分の違法及び不当又は公益目的違反としており、原処分の違法に限定する見解は少数。

判断:
法律による行政の原理ないし法治主義授益的行政処分の職権取消権は、侵害的行政処分と異なり、原処分が違法である場合に限り発生する。

原処分がした要件充足の判断がそもそも裁量の範囲内にある上に直接その判断の当否を法的・客観的に審査しても要件を充足している場合に取消しが可能というのは不条理
司法審査を通じて行政の恣意的権力行使を否定するという法の支配の観点

仮に、不当又は公益違反の瑕疵の場合も含められると解されるとしても、公有水面埋立法の解釈として、同法の承認処分の取消権は同法が違法である場合に限られると判断。
 
●争点②について 
公有水面埋立法4条1項1号の要件審査は外交・防衛とうい国家の安全保障上の問題が含まれるかについて、

本判決:
①同審査は、国土利用上の観点から埋立ての必要性及び公共性の高さと埋立て自体及び埋立て後の土地利用による自然環境ないし生活環境に及ぼす影響等と比較衡量した上で、地域の実情を踏まえ総合的に判断するところ、
②同審査に当たっては埋立てに係る事業の性質や内容は不可欠
③同法の承認(同法42条1項)は法定受託事務(同法51条1号、地方自治法2条9項)であるが「地域における事務」ともいえる
⇒肯定。

公有水面埋立法4条1項1号の要件審査の違法性について、
前記のような同審査の判断は、高度の政策的判断に属するとともに、専門技術的な判断も含まれる知事に広範な裁量があるとして、いわゆる小田急平成18年最高裁判決と同様の基準を採用

●争点③について 
公有水面埋立法4条1項2号の要件審査の違法性について、
同号の「環境保全」について「十分配慮された」とは、環境保全について十分と言える程度に問題の現況及び影響を的確に把握した上で、これに対する措置が適正に講じられたことを言う。

①その措置が講じられない場合には私人の個別的利益を具体的に侵害するおそれがあり
②他方で、同号の文言から一定の裁量的判断を許容するもの

多方面にわたる専門的技術的知見を踏まえた総合的判断が必要とされるとして、知事に裁量を認め、いわゆる伊方最高裁判決(最高裁H4.10.25)と同様の基準を採用

●争点④について 
争点①について授益的行政処分の職権取消しは原処分が違法である場合に限定
争点②及び③において、前記承認処分が公有水面埋立法4条1項1号及び2号の要件審査において違法であると認められない
⇒前記取消処分は違法。
but
念のため争点④について判断。
前記承認処分についての職権取消権が発生した場合について、その取消権の行使は制限されるか?

判例:行政処分の取消しを必要とする公益上の理由が同取消しによってもたらせる既存の法律秩序の破壊による不利益を上回らなければならないという利益衡量的判断

本判決:
同様に利益衡量により前者が後者を明らかに優越していることが必要。
その考慮要素としては、
①前記取り消すべき公益上の必要及び②取り消すことによる不利益に加え、
③処分の性質及び瑕疵の性質・程度、③瑕疵が生じた原因も含め、処分の根拠法令等に即して判断されるべき。

前記承認処分については、
①性質上法的安定性の確保の要請があり、
②その瑕疵については、Yが主張していると解される本件承認処分の法令要件違反における裁量範囲を逸脱する違法と連続する関係における裁量範囲内の違法でない要件違反がある場合であり、その程度は軽度であり、その瑕疵が生じた原因は承認申請者にない

取り消すべき公益上の必要が取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとまでは認められない。
前記取消処分は許されない。

判例時報2317

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 「道徳と利益」 | トップページ | 「会社のパフォーマンスを定義する」 »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 授益的行政処分に対する職権取消権の発生要件等:

« 「道徳と利益」 | トップページ | 「会社のパフォーマンスを定義する」 »