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2017年3月20日 (月)

存続期間の延長された特許権の効力が被告の製造販売に及ぶかが問題となった事例

東京地裁H28.3.30      
 
<事案>
発明の名称を「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」とする特許(本件特許)の特許権者である原告が、被告に対し、被告の製造販売に係る製剤(被告製品)は、本件特許の願書に添付した明細書(本件明細書)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、かつ、存続期間の延長登録を受けた本件特許権の効力は、被告製品の生産、譲渡及び譲渡の申出に及ぶ旨主張して、被告製品の生産等の差止め及び廃棄を求めた。 
 
<規定>
特許法 第67条(存続期間)
特許権の存続期間は、特許出願の日から二十年をもつて終了する。
2 特許権の存続期間は、その特許発明の実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であつて当該処分の目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために、その特許発明の実施をすることができない期間があつたときは、五年を限度として、延長登録の出願により延長することができる。
 
特許法 第68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)
特許権の存続期間が延長された場合(第六十七条の二第五項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は、その延長登録の理由となつた第六十七条第二項の政令で定める処分の対象となつた物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあつては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施以外の行為には、及ばない
 
<判断> 
●特許権の存続期間の延長登録の制度:
特許発明を実施する意思及び能力があってもなお、特許発明を実施することができなかった特許権者に対して、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為について、当該政令処分を受けるために必要であった期間、特許権の存続期間を延長する措置を講じることによって、特許発明を実施することができなかた不利益の解消を図った制度。 

特許権68条の2の規定によれば、特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は、政令処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては、当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明の実施行為にのみ及ぶ。

原則として、政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行使、すなわち、当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった(当該用途に使用される)物についての実施行為にのみ及び、特許発明のその余の実施行為には及ばない。

前記の延長登録の制度趣旨
当該政令処分の対象となった(当該用途に使用される)物と相違する点がある対象物件であっても、当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は、当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点)において、存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして、その相違が周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効用を奏するものではないと認められるなど、当該対象物件が当該政令処分の対象となった(当該用途に使用される)物の均等物ないし実質的に同一と評価される物についての実施行為にまで及ぶ
 
●特許法67条2項の政令で定める処分が、 医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律所定の医薬品に係る承認である場合は、当該医薬品の「用途」と特定する事項に該当すると考えられる「用途、用量、効能、効果」について必ず審査される
⇒特許法68条の2括弧書の「その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合」に該当。

政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合、「当該用途に使用される物」についての特許発明の実施か否かを判断しなければならない⇒「物」及び「用途」の特定が必要となる。
医薬品の成分を対象とする特許発明の場合、特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は、「物」に係るものとして「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され、かつ、「用途」に係るものとして、「効能、効果」及び「用法、用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で効力が及ぶものと解するのが相当」(「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれる。)
 
●本件では、処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは、「物」に係るものとしての成分として「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含みそれ以外の成分を含まない製剤
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被告製品の成分は、「オキサリプラチン」と「水」以外に、添加物として「濃グリセリン」を含むものであると認定。

「当該用途に使用される物」とは、「成分」において異なる⇒本件処分に対象となった「当該用途に使用される物」とは異なる。 
 
●実質同一物か否かの判断について: 
「当該用途に使用される物」といえないとしても、「被告製品と本件処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が、被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において、本件発明の種類や対象に照らして、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではない場合には、その「当該用途に使用される物」の均等物、あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当

当該特許発明が新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など、医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明
⇒延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分のみが異なるだけで、生物学的同等性が認められる物については、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たり、新たな効果を奏しないことが多い
⇒「当該用途に使用される物」の均等物や実質的同一物に当たるとみるべきときが策なくない。

当該特許発明が製剤に関する発明であって、医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合
⇒延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で、有効成分以外の成分が異なっていれば、生物学的同等性が認められる物であっても、当該成分の相違は、当該特許発明との関係で、単なる周知技術・慣用技術の付加、削除、転換等に当たるといえず、新たな効果を奏することがある
「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在

①本件発明は、医薬品の成分全体と特徴的部分とする発明であって、原告は、その実施として、「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み、それ以外の成分を含まないとする得るプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けた。
②被告製品は、「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか、有効成分以外の成分として、「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので、本件発明との関係でみると、被告製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において、オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが、単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく、むしろ、オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる。

本件処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当することはできない
 
<解説>
実質同一物かの判断基準については、拡大先願(特許法29条の2)に関する審査基準の言い回しが使用されており、いわゆる均等論と同一の基準を用いず、医薬品の特質を踏まえながらも独自の判断基準を立てたもの。 

判例時報2317

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