控訴審でのDNA再鑑定による強姦事件で無罪となった事案
福岡高裁宮崎支部H28.1.12
<事案>
平成24年10月7日午前7時過ぎに、南九州の繁華街の路上で、自転車に跨った被告人が17歳の被害者を170メートル離れた路地裏まで連行し、そこで強姦したという事案
<一審>
被告人に強姦されたとの被害者の証言は、以下の①ないし④の事実に照らして信用できるとして、被告人を有罪とした。
①被害者が事件直後に母親と勤め先の店長に助けを求めるメールをしている。
②被害者の乳輪周辺から採取された付着物から被告人のDNA型と一致する唾液が検出された。
③被害者の膣前庭部、膣口部、子宮口部から採取された膣液から精液が検出された(但し、この精液については、抽出されたDNAが微量であったためPCR増幅ができず、型官邸には至らなかったとされている。)
④現場に遺留された自転車から被告の指紋が検出された。
<再鑑定>
控訴審で行われた民間専門家によるDNA型再鑑定により、前記③の資料からは被告人の精子は検出されず、逆に被告人のものとは異なる他の男性の精子の存在が認められ、かつその精子は、被害者が事件当日着用していたショートパンツに付着していた資料とDNA型が一致。
同再鑑定は、一審の鑑定について、いかに微量でも精子の存在が認められる場合にそのDNA鑑定ができないことは通常考え難いとする。
<判断>
再鑑定結果⇒被害者が本件直近の他の男性との性交の事実を秘匿しているなどとして被害者証言の信用性を否定し、被告人を無罪とした。
前記②の事情については、被告人と被害者との性的接触までは推認されるが、強姦や強制わいせつの事実と認める証拠とはならない。
<解説>
●一審有罪判決の決め手となった鑑定について、「実際には精子由来ではないかとうかがわれるDNA型が検出されたにもかかわらず、それが、その頃鑑定の行われていた被告人のDNA型と整合しなかったことから、捜査官の意向を受けて、PCR増幅ができなかったと報告した可能性すら否定する材料がない」と判示。
一審で証拠とされた鑑定は、その鑑定担当者が、抽出後定量に使用したDNA溶液の残部を全て廃棄し、その上、鑑定経過を記載した「メモ紙」までも廃棄しており、その経過の追証が不可能な状態になっていた。
●控訴審は、検察官が提出しようとした再々鑑定についての事実取調べを相当性がないとして却下。
「検察官が公益の代表者として重要な資料を領置しているいることを奇貨として、秘密裏に、希少かつ非代替的な重要資料の費消を伴う鑑定を嘱託したもので、その結果が検察官に有利な方向に働く場合に限って証拠請求を行う意図であったことすらうかがわれるのであって、単に上記の本来の在り方を逸脱したにとどまらず、訴訟法上の信義則及び当事者対等主義の理念に違背し、これをそのまま採用することは、裁判の公正を疑わせかねないものである。」
●DNA型鑑定は「個人識別能力という意味では既に究極の域に達している」と評価され、その結果は事実認定に決定的な影響力をもつ。
判例時報2316
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