情報公開訴訟で消費者庁が行った不開示決定が取り消された事例
東京地裁H28.1.14
<事案>
情報公開訴訟で、不開示処分が取消訴訟で争われている事案。
本件開示請求書:「消費者庁が保有する、2010年夏にAから預託法順守状況についての報告申し出があったにもかかわらず担当課長らに対してなされた処分の内容及び理由、経過等が分かる一切の文書」(「本件開示請求対象文書」)
処分行政庁である消費者庁長官は、本件開示請求対象文書は作成も取得もしておらず、これを保有していないとして、開示しない旨の決定(「本件原決定」) ⇒
異議申立て⇒情報公開・個人情報保護審査会は、答申上明記した「特定すべき文書」(「本件答申対象文書」)についての保有を認め、その開示を検討すべき旨を答申⇒処分行政庁は、本件開示請求対象文書が本件答申対象文書であると特定し、これに基づく特定の文書について、当該文書中の不開示情報該当部分を除く文書につき開示する決定(「本件決定」)
⇒原告は、本件決定における不開示部分の取消しを求めて本件訴えを提起⇒処分行政庁は、本件決定における不開示部分中、Aの社員氏名以外の部分ほかの特定部分(「本件追加開示部分」)を開示する旨の本件決定の変更(「本件変更決定」)。
<規定>
行政情報公開法 第五条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが、公にすることにより、なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。
・・・
二 法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの。ただし、人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報を除く。
イ 公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの
・・・
六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそ
行政情報公開法 第四条(開示請求の手続)
・・・
2行政機関の長は、開示請求書に形式上の不備があると認めるときは、開示請求をした者(以下「開示請求者」という。)に対し、相当の期間を定めて、その補正を求めることができる。この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、補正の参考となる情報を提供するよう努めなければならない。
行政手続法 第八条(理由の提示)
行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
<争点>
①本件不開示文書に記載された情報が行政情報公開法(「法」)5条各号所定の不開示情報に該当するか
②本件不開示文書の部分開示義務の有無等
③本件決定における手続的違法(法4条2項違反、行政手続法8条違反)
<判断>
●争点①
不開示情報該当性についての主張立証責任が被告行政側にあることを踏まえ、法5条6号該当性について、「同号の定める要件に該当する事情の有無によって客観的に判断されるべきものであって、同号の文言に照らしても、行政機関の長の裁量判断に委ねられていると解することはできない」
⇒処分行政庁は、開示請求に係る行政文書の外形的事実等に加えて、国の機関等の行う事務又は事業の目的及び内容を明らかにした上で、当該行政文書を公にした場合に当該事務又は事業にいかなる影響(実質的な支障)が及ぶのかを主張立証すべき。
消費者庁の調査官が景表法に基づく措置命令に向けた本件での立入検査においてAから任意の提出を受けた文書の不開示について、「本件不開示文書を公にすることによって、消費者庁の事務(現在及び将来の景表法に基づく調査委事務)の適正な遂行について実質的な支障を及ぼす蓋然性を客観的に認めることはできず」、法5条6号の不開示情報には該当しない。
Aの役員の氏名、役職、報酬等の本件役員情報については、法5条1号該当性を認める不開示妥当を判断。
Aが監査法人からの質問事項に対して用意した回答内容が記載された不開示部分については、当該監査法人との関係において法5条2号イの定める不開示情報には該当しない。
●Aの役員が債務保証をしている関連法人に関する不開示部分につき、争点②にかかる判断において、
全証拠を精査しても、本件役員情報部分を除いた部分に不開示情報が記録されていることを認めるに足りる事実ないし証拠はない
⇒
本件決定のうち、前記部分の不開示部分の取消しを判示。
●争点③について
処分行政庁が本件原決定をすべて取り消して本件決定を行った⇒法4条2項には違反しない。
本件決定書において処分行政庁が本件答申対象文書を本件開示請求対象文書として特定した経緯を記載し、本件答申対象文書について不開示部分ごとに不開示理由を明記した表を添付。
本件決定書の記載内容をみた場合、行手法8条の趣旨に照らしても、処分行政庁が本件開示請求対象文書に含まれないと判断した文書や、存在していない文書について、逐一その理由を同条に基づき示すべき義務を負っていたということはできない。
⇒行手法8条に違反しない。
<解説>
争点①の判断理由として
①本件不開示文書が、景表法違反被疑事件調査事務において入手された文書ではなく、措置命令を行うための景表法9条調査等事務である本件立入検査において入手されたもの⇒景表法違反被疑事件調査事務の遂行に具体的な影響が生じるとは直ちに考え難い
②本件不開示文書の任意提出について、これをAが不提出とした場合に景表法16条、18条による拒否の場合の罰則の対象となる⇒景表法違反被疑事件調査事務における任意の協力と同視することはできない。
③消費者庁が本件措置命令の概要を公表していること
を指摘。
争点②の理由につき、
本件役員情報部分が本件不開示文書の本文の上段部分に記載されていることに鑑みればと、文書中の不開示情報の記載位置に着目。
判例時報2315
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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