特殊詐欺の受け子の詐欺の故意・共謀の認定
①東京高裁H27.6.11
②松江地裁H28.1.20
■①事件
<争点>
詐欺の故意及び共謀の成否
<一審>
ワイシャツにネクタイ姿で、上司から言われてきたタナカですなどと偽名を名乗ってうそを言い、被害者から「200万円」と大きく書かれた偽券入りの信用金庫の封筒を手渡しで受け取って上着ポケットに入れ、何も説明することなくすぐさま立ち去ろうとした。
⇒
被告人は、遅くとも前記封筒を受領しようとした時点で、詐欺の故意があったと優に認定できる。
①被告人が、1日当たり5ないし10万円の報酬の約束で、氏名不詳者の指示に従って行動することとし、偽券を受領する際に詐欺の故意があったのに氏名不詳者の指示に従い続けて、現金受取役とう詐欺の成否を握る極めて重要な役割を果たした
②被告人のとった行動は、氏名不詳の架け子が、被害者に伝えていた現金の受取場所、受取役の名前、立場と合致するもの
⇒
被告人に詐欺の具体的な手口について認識がなかったとしても、遅くとも、詐欺の故意が生じた時点において、被告人と指示役や架け子の氏名不詳者らとの間に順次共謀が成立したものと認められる。
<判断>
被告人は、被害者から封筒を示された時点で、それが現金詐欺であると認識したと優に推認でき、氏名不詳者は、被告人が相手方から荷物を受け取るにあたり、場合によっては現金詐欺であることを察知する事態となることは了解しており、被告人が現金詐欺と認識した時点で、被告人と氏名不詳者との間に本件詐欺についての暗黙の意思の連絡があったといえる。
⇒
遅くとも封筒を受領しようとした時点で詐欺の故意及び共謀が成立したと認定した原判決に事実誤認なし。
<解説>
●組織的詐欺における共謀の成立と故意との関係
来日して郵便物を受け取った外国人である被告人が、覚せい剤密輸入の共謀共同正犯に問われた事案で最高裁H25.4.16:
被告人が覚せい剤が隠匿されている可能性を認識しながら貨物受取の依頼と引き受けがされたという事実関係の下では、特段の事情がない限り、故意だけでなく共謀も認定できる。
犯罪組織関係者から日本に入国して輸入貨物を受け取ることを依頼されたという事実関係の下では、特段の事情がない限り、覚せい剤輸入の故意だけではなく共謀をも認定するのが相当。
「特段の事情」の例として、犯罪組織側は事情を知らない者を道具として覚せい剤を受け取らせようとしたが、その受取役の者がたまたま覚せい剤を輸入することを察知したような場合。
●本件のように、指示役が犯行の詳細を知らない受け子を(道具のように)利用する態様の組織的詐欺事件の場合
行為者本人の犯罪遂行に向けての意思(故意)と共同行為者間での意思の連絡が、時期的に別個に発生することもあり、本件のような事案では、受け子がオレオレ詐欺の指示を仰がない限り、両者の間の意思の連絡と受け子の故意とは別個の機会に発生することができるとする見解。
~
実際上、多くの場合、指示役には、受け子がオレオレ詐欺だと知っていても構わないという未必的な共同正犯の故意があり、この場合、指示役の受け子に対する指示は、受け子に詐欺の故意が生じたことを条件とする条件付きの共同正犯の意思の連絡の面がある考えられるとする。
■②事件
<事案>
被告人が氏名不詳者らと共謀の上、当時87歳の被害者に対して、名義貸しに係るトラブル解決のために示談金を支払えば、トラブルが解決し示談金も返還されるなどとうそを言い、受け子である被告人が被害者から1550万円をだましとったという事案。
被告人は、金額はともかく、被害者から受領した紙袋内に現金が入っていると認識していた。
<争点>
受け子である被告人に詐欺の故意があったと認められるか
<判断>
詐欺組織に属するFが被告人に対し、依頼関係の詳細を明示しないまま、正当な会社業務であるとの前提で、なし崩し的に依頼を承諾させていた。
(1)多額の経費をかけて現地に赴き、高齢者から現金を受け取り、その際、偽名を用いながら装いはスーツで整えていたという外形的な側面
⇒被告人の詐欺の故意及び共謀を推認させる。
(2)
①現金と荷物の受取だけで経費をかけて松江まで出向くのは不自然であるが、Fから、更に人に会う必要が生じる可能性があると言われたことから、送金等によらず自分が出向く方法が選択されても不自然ではないと考えるに至った経緯に不自然不合理はない
②Fの被告人に対する依頼内容が変遷した点、連絡用の携帯電話を指定された点についても、被告人の述べる経緯には一応の筋が通っている
③偽名を用いて本件預り証と交換に現金を受領した点についても、Fから、後日正式なものを送付した後に廃棄する、迷惑はかけない、被害者から受領する現金の趣旨についても、悪いことはしていないなどと言われ、最終的に、犯罪にかかわるものではないと考えたからこそ本件預り証の作成に応じたという経緯を推認されるという見方も十分可能。
④被告人は、前科があるのに、本件預り証に指紋を残し、その後宿泊したホテルの宿泊者カードに、偽名を記載したとはいえ被告人の旧住所や現在の携帯電話番号を記載し、指紋も残すなどしている。
⇒
前記(1)の事実が直ちに、被告人に対し、正当な取引に基づくものではなく何らかの犯罪に関係するものであるとの認識を生じさせたとはいえない。
⇒
被告人は、被害者から紙袋を受け取るまでの間に、何らかの犯罪に荷担していると未必的にも認識していたとは証拠上認められない。
<解説>
●オレオレ詐欺等における受け子の「故意」の認定
裁判実務では
①受け子が被害者から受領する物が現金であることを、受領時点で(未必的にせよ)認識していたと認定できるか
②認定できるとして、種々の間接事実を総合して、前記現金受領が詐欺を含む違法行為に基づくものであると(未必的にせよ)認識していたと推認できるか
が問題となり、
それぞれを推認させる間接事実の主張立証、推認を妨げる被告人の弁解内容の信用性等を検討するという判断手法が採られる場合が多い。
東京地裁H26.12.25:
①受け子が、共犯者(架け子)が被害者をだます電話をかけた際に告げたのと同じ偽の肩書き及び氏名を名乗り、あらかじめ用意した現金預り証を被害者に交付して現金入りの紙袋を受領
⇒受け子は被害者から預かる物が現金であると認識していた。
②あらかじめ氏名不詳者から、スーツを着用し、偽名を用いて会社員を装うことを指示されていた
⇒自分の行うのが虚偽を述べて現金を受領する行為であり、それが何らかの詐欺行為により現金をだまし取るものであると認識していたと強く推認できる
③被告人(受け子)の弁解が不合理
⇒詐欺の故意及び共謀を認定
①のレベルについて、
氏名不詳者が被害者に対して、わざわざ、来訪者(被告人)には書類である旨告げた上で現金を渡すよう指示⇒被告人(受け子)に荷物の中味が現金であることを悟られないようにして持ち逃げを防ぐため、本件詐欺の筋書きを知らせないまま道具として利用した可能性を払拭できない⇒被告人は前記被害者から預かる物が現金であると認識していたとは認められないとして、詐欺の故意を否定。
(東京高裁H23.8.9)
●本件について、
①被告人が、知人からの指示をうけたとはいえ、相当な経費や手間をかけた上、偽名を用いるなどして、面識もない高齢の被害者から、相当額の現金が入っていると認識しながら荷物を受け取ったという事実関係は、本判決の評価以上に本件詐欺の故意を強く推認させるものと見得るのではないか
②そのことに照らせば、被告人の公判供述の信用性やその他の間接事実の評価についても更なる検討のよちがあったのではないか
との異論も想定できる。
判例時報2312
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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