年金給付の受給権者が死亡した場合に、その配偶者が自己の名で未支給年金の支給を請求するための「その者と生計を同じくしていたもの」の要件の判断。
仙台高裁H28.5.13
<事案>
老齢基礎年金及び老齢厚生年金を受給していた別居中の夫Aが死亡⇒妻であるXがその未支給年金の支給を申請⇒Aの死亡当時XがAと生計を同じくしていたとは認められないとの理由で不支給処分⇒Xがその処分の取消しを求めた。
<国の主張>
生計同一要件に関する認定基準(「本件基準」)に照らし、
住所が住民票上異なり、現に起居を共にしていないXについては、「やむを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること、定期的に音信、訪問が行われていることが認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにすると認められる」場合でなければ生計同一要件を充足しない。
<判断>
本件基準の合理性を肯定。
本件基準自体が「これにより生計同一関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合」を例外としていることを指摘し、
婚姻関係の破綻につき有責で自ら離婚請求することが許されないような配偶者が婚姻費用分担義務を履行せず、その強制執行も奏功しない間に死亡したといった場合を例に挙げ、
生計同一要件充足性の判断においては「現に消費生活上の家計を一つにしているか否か」という事実的要素のみによって判断すべきでなく、婚姻費用分担義務の存否その他の規範的要素を含めて判断すべき場合がある。
X・A夫婦の婚姻関係の実態をより詳細に認定し、別居はやむを得ない事情によるもので、もしAの健康が回復していれば別居解消の可能性があった
⇒そのような事情の下では「定期的に音信、訪問があった」とはいえないとしても、本件基準の定める例外として生計同一性を認めることができる。
⇒
Xの請求を認容。
<解説>
●生計同一要件に関する認定基準:
受給権者の法律上の配偶者の住所が受給権者の住所と住民票上同一である場合には、れ以上の実質的審査を行うことなく生計同一性を認めるものとなっている。
十分な資力を有していない法律上の配偶者が遺族年金等の支給を認められない場合としては、受給権者が重婚的内縁関係を形成しその内縁配偶者からも遺族年金等の支給申請がなされている場合が典型例。
最高裁:
法律上の配偶者であっても、「その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みがないとき、すなわち事実上の離婚状態にある場合」には、もはや遺族年金を受けるべき「配偶者」に該当しない。
「事実上の離婚状態」にあるか否かは、重婚的内縁関係の実態との相対的比較で決せられるのではなく、「(当該夫婦間に)婚姻関係を解消することについての合意があり、事実上の離婚に関する経済的給付も、事実上の離婚給付としての性格を有するものであるなど、双方の積極的な意思が合致して事実上の離婚状態を作り上げているということでなければならない。」との指摘。
~
遺族給付受給資格における法律上の配偶者の地位を重視し、「事実上の離婚状態」と、いわゆる「婚姻関係の破綻」とを明確に区別。
●本件基準は生計同一要件に関する基準。
「別居解消の可能性がない」
「定期的な音信、訪問がない」
「現に経済的援助を受けていない」
ということから生計同一性を否定
⇒
受給権者による遺棄的な状況で別居を余儀なくされ、婚姻費用の支払も受けられていない法律上の配偶者は、自ら離婚を受け容れない限り、離婚給付も得られず、年金分割の請求もできず、その間に受給権者が死亡してしまうと遺族年金の支給も受けられないという事態に陥ることもあり得る。
⇒
本判決は、生計同一性の判断において事実的要素のみではなく規範的要素を含めて判断すべき場合があるとする。
判例時報2314
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