客観的事実(これだけでは不十分)+自白供述で殺人犯と認定した事例
宇都宮地裁H28.4.8
<事案>
殺人等被告事件
被告人の供述:
公判では全面否認
捜査段階から起訴後の公判前整理手続までの間は、全面否認、第三者による犯行であるという否認、自白などの間を変遷。
検察官は、捜査段階での自白調書の任意性・信用性立証のために、取調状況の録音録画を証拠申請
<判断>
自白以外の証拠に基づく判断⇒客観的にみて被告人の犯人性を強く疑わせる事実が認められる。
ex.
被害者の遺体から採取された獣毛のDNAが被告人の飼い猫と同種
被告人車両が遺体発見日の未明に自宅から茨城県(発見場所)方面に向かい数時間後に自宅に戻るという記録がある。
but
これら客観的事実のみでは被告人が犯人とするには合理的疑いが残る。
自白調書の任意性を肯定した後、
信用性についても、
①自白の内容が客観的事実(遺体及び遺棄現場の客観的状況や死亡推定時刻)と矛盾しない
②捜査官の予測しない供述(死体遺棄の帰りに道に迷い高速道路に乗った)で補充捜査により裏付けが得られるものがあるなど、供述内容が不合理でない
③取調状況の録音録画(殺人容疑で逮捕前の別件勾留中のものも含む。)などからわかる供述態度や供述経過
⇒信用性を肯定。
前記客観的事実及び自白調書を併せると、被告人が犯人であることに合理的疑いは生じない⇒被告人を有罪認定。
<解説>
①取調状況の録画について、すべてが録音録画されたわけではない(特に、別件勾留中における最初の自白の場面の録音録画はない。)。
②録音録画がされた取調べだけで数十時間⇒裁判員裁判においてその全部を公判で再生するのは非現実的⇒双方が選択した十数時間だけが公判で取り調べられた。
判例時報2313
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