神社の宮司もパワハラ、神職の労働者性(肯定)
福岡地裁H27.11.11
<事案>
Y1神社の神職(権禰宜)であったXが、同神社の宮司であるY2からパワハラを受け、違法に解雇された
⇒
Yらに対して慰謝料を、
Y1神社に対して地位確認、賃金、残業代、付加金等の支払を求めた。
<争点>
①パワハラの有無
②Xの労働者性の有無
③Y1神社によるXの解職の有効性の有無
④付加金を命じることの要否等
<判断>
●争点①
Y2は、Xを2回にわたり坊主頭にさせたほか、
平成25年6月から同年8月までの間に、Xを指導するに当たり、多数回の暴行を加え、
机を叩き、胸ぐらをつかんだりしながら、「ぶん殴りたい」「お前根性焼きしようか」「給料泥棒」「腐ったみかん」などの暴言を浴びせた。
⇒
指導方法として許容し得る範囲を著しく逸脱しており、かかる行為はY1神社の職務を行うにつきされたもの
⇒
Yらに対し連帯して100万円の慰謝料の支払を命じた。
●争点②
労働省(当時)労働基準局長は昭和27年2月5日、「宗教法人又は宗教団体の事業又は事務所に対する労働基準法の適用について」と題する通達(「本件通達」)を発している。
そこで、「宗教上の儀式、布教等に従事する者、教師、僧職者等で修業中の者、信者であって何等の給与を受けず奉仕する者等は労働基準法上の労働者ではない」としている。
本判決:
本件通達二(イ)に規定される者に該当するのは
①「宗教上の儀式、布教等に従事する者」又は「僧職者等で修業中の者」であって、かつ
②「何等の給与を受けず奉仕する者」
に限られると限定的に解するのが相当。
Xは、Y1神社において神職として宗教上の儀式等に従事しており、その活動には一人前になるための修行の側面があるとはいえ、Y1神社から、毎月、基本給及び奉務手当等の俸給の支給を受けている
⇒
Xは、Y1神社の指揮監督の下、Y1神社に対して労務を提供し、Y1神社はXに対し当該労務提供の対価として賃金を毎月支払っていたことになる
⇒
Xは、労基法及び労働契約法上の労働者に当たる。
●争点③
Y1神社は、解職理由として
①笛、神楽歌、衣紋等の神職として必要な教養を習得する意欲に乏しく、神社に奉仕する神職としての自覚が認められない
②Y1神社の再三の指導、教育にもかかわらず、改心の見込みがなく、神職としての適格を欠くことを挙げる。
vs.
本件解職通知が発せられた時点において、
①Xが備えていた笛、神楽歌及び衣紋等の神職としての教養レベルが、Y1神社に勤務する神職としておよそ不適格であるという程度にまで低いものであったとまでは認めることはできない
②Xがこれらの教養についての学習意欲をおよそ有していなかったともいえない
⇒
Y1神社のXに対する解職通知は無効。
Y1に対し、これまでの残業代やバックペイの支払を命じた。
●争点④
①本件通達は、その文言だけをみれば、宗教上の儀式に従事する者や修行中の僧職者等について、一律に労基法上の労働者とは異なる取扱いをするとの解釈も全くあり得ないとはいえないこと
②Y1神社は、労働基準監督署の調査において、神職に適用される就業規則を定める必要はない旨の指摘を受け、その後、神職を雇用保険の被保険者としない扱いを認められるようになった
⇒
Y1神社が割増賃金を支払わなかったことにも一定の理由があった。
⇒
付加金の支払については、これを否定。
<解説>
●
厚労省の平成24年1月30日の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」:
パワハラを「同じ職場で働く者に対して、職場上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義。
肯定の裁判例と否定の裁判例
セクハラ・パワハラについて:松村満美子「労働におけるコンプライアンス・・・その現状と今後の課題」法律のひろば67・3・18以下
●
神社の神職を労働契約法上、労基法上の労働者と認定。
これまで、研修医や社内弁護士について労働者性を肯定。
職務の内容や質、量において使用者の基本的な指揮命令のものにあって労務を提供し報酬を得ていれば「労働者」といえる。
●本件は、残業代426万円余の不払いを認めながら付加金の支払を否定した極めて珍しい事例。
判例時報2312
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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