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2017年2月11日 (土)

標章の使用差止等請求の権利濫用(肯定)、不正競争防止法2条1項1号、2号の類似性

東京地裁H27.11.13      
 
<事案>
化粧品の製造販売業等を営むXが、通信機器等の輸入・販売業を営むYに対し、
①Yの使用する「DHC-DS」等の標章はXの商標「DHC-DS」と同一又は類似であるなどと主張して、商標法36条1項及び2項に基づき、前記標章の使用差止等を求めるとともに
②Yの使用する「DHC-DS」等の商標表示はXの著名ないし周知な商標等表示である「DHC」等に類似するなどと主張して、不正競争防止法2条1項1号及び2号、同法3条1項及び2項に基づき、「DHC-DS」等の表示の使用差止等を求めた事案。

Yは、
前記①の請求に対しては権利の濫用の抗弁を主張し、
前記②の請求に対しては不正競争防止法2条1項1号及び2号の類似性をいずれも否認。
 
<規定>
商標法 第36条(差止請求権)
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。

不正競争防止法 第3条(差止請求権)
不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。第五条第一項において同じ。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる。

不正競争防止法 第2条(定義)
この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為
 
<判断>
●商標権
①台湾DHCはその設立から30年近くを経た会社であり、諸外国で「DHC」の商標権を取得している上、バッテリーテスター等について相当な販売実績を有している。
②Yは従前、台湾DHCから輸入したバッテリーテスター等に「DHC JAPAN」との標章を付していたが、Xから当該標章の使用中止要請を受けて交渉する中で、Xの利益に一定程度の配慮をして「DHC-DS」という標章に変更した。
③XはYの使用する標章をめぐって交渉を積み重ねている中で、Yが譲歩を示して、当初Xから商標権の侵害であるとして使用の中止を求められた「DHC-JAPAN」を「DHC-DS」という標章に変更してこれを使用していることを十分認識しながら、Yとの交渉が条件が折り合わずに暗礁に乗り上げたとみるや、自らの標章につき不使用取消審判を受けているにもかかわらず、あえてYの使用していた「DHC-DS」の文字につき、指定役務にわざわざバッテリーテスターを含めた上で、商標として出願し、その登録を得ると、直ちにこれをYに対して行使した。
④Xは化粧品、健康食品、アパレル等の商品を販売する会社であって、バッテリーテスター等の製造・販売を行ったことはなく、ましてやバッテリーテスター等の製造・販売に当たって「DHC-DS」との商標を使用する具体的な意思があったともうかがわれない

Xが「DHC-DSの商標権に基づいてYの「DHC-DS」の使用を差し止めることは、権利の濫用に当たり許されない
 
●不正競争防止法
◎不正競争防止法2条1項1号の類似性判断
取引きの実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、呼称又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和58.10.7)の基準を引用。
①Xの「DHC」との表示とYの「DHC-DS」との表示を比較すると、外観及び呼称においては共通する部分もあるものの、全体として異なるものと言わざるを得ない。
②観念についてみても、前記各表示はいずれも造語であると認められ、何らの観念も生じない
③Xの宣伝活動は化粧品、健康食品、アパレル等の分野に限られていて、バッテリーテスター等の製造・販売事業を行っていない
④他方で、台湾DHCはその設立から30年近くを経た会社であり、諸外国で「DHC」の商標権を取得している上、バッテリーテスター等について相当な販売実績を有している。
⑤他にも「DHC」の商標につき商標権を取得している会社は複数あって、少なくとも「DHC-DS」等から観念される営業主体はXだけに限られない

不正競争防止法2条1項1号にいう類似性があるとまではいえない
 
◎不正競争防止法2条1項2号の類似性判断 
同項1号におけるそれとは基本的には同様であるが、両規定の趣旨に鑑み、同項1号においては、混同が発生する可能性があるか否かが重視されるべきであるのに対し、同項2号にあっては、著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主と1対1の対応関係を崩し、希釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か、すなわち、容易に著名な商品等表示を早期させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。

仮にXの「DHC」との表示に著名性が認められるとしても、Yの「DHC-DS」において、容易にXの「DHC」との表示を想起させるほどこれに類似しているとまでいうことは困難
Xの請求をいずれも棄却
 
<解説>
●商標権の行使と権利の濫用
最高裁H2.7.20(POPEYE商標事件):
漫画の主人公の観念、呼称を生じさせる登録商標の商標登録出願当時、既にその主人公の名称が漫画から想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれていた場合において、右主人公の名称の文字のみから成る標章が右漫画の著作権者の許諾に基づいて商品に付されているなど判示の事情の下においては、右登録商標の商標権者が右標章につき登録商標の商標権の侵害を主張することは、権利の濫用として許されない。

●不正競争防止法2条1項1号、2号の類似性判断
不正競争防止法2条1項1号の類似性判断につき、最高裁昭和58.10.7は、
取引きの実情のもとにおいて、取引者又は需要者が両表示の外観、呼称又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準とする旨を判示。

不正競争防止法2条1項2号の類似性判断について、
学説上
基本的には同項1号における判断基準と同様としつつも、
同項2号の保護目的がただ乗り(フリーライド)、希釈化(ダイリューション)、汚染(ポリューション)等の防止にある

その類似性については、著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との1対1の対応関係を崩し、希釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か、すなわち、容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かで判断すべきものとの説が有力。

判例時報2313

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