建築基準法86条の2第1項に基づく認定処分の瑕疵が、処分後の措置により治癒されたとされた事例
東京地裁H28.2.16
<事案>
八王子市長がA団地管理組合に対し、建築基準法86条1項に基づく一団地の認定された旨公告された区域内に所在するA団地について、法86条の2第1項に基づく認定処分⇒区域内に居住する近隣住民であるXらがその取消しを求めた。
<規制>
建築基準法の各種制限は、原則として敷地単位に適用。
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法86条1項は、一団地内に総合的設計によって建築される二以上の構えをなす建築物を建築する場合等において、特定行政庁がその各建築物を建築する場合等において、特定行政庁がその各建築物の位置・構造が安全・防火・衛生上支障がないと認めるもの(「一団地認定」)については、容積率等の制限に係る規定の適用については、当該建築物は同一敷地内にあるとみなすとしている。
法86条の2第1項は、区域内で建築物を立て替える場合などには、当該建築物の位置・構造が他の建築物の位置・構造との関係において安全・防火・衛生上支障がない旨の特定行政庁の認定(「同一敷地内建築物認定」)を受けることを要するとしており、
建築基準法施行規則10条の16第2項2号は、同一敷地内建築物認定の申請をしようとする者は、区域内の他の地権者に対する建築物の計画に関する説明のために講じた措置を記載した書面(「説明措置記載書面」)を特定行政庁に提出するものとしている。
<判断>
①本件規定は、同一敷地内建築物認定を得て新たな建築行為が他の地権者の知らないうちに行われると、それらの者の将来の建築行為に対する規制に影響が及び、権利が侵害される結果になりかねない⇒事前の説明措置によりかかる事態を未然に防止する趣旨。
②説明措置は、少なくとも区域内の他の地権者の大半に説明内容が伝わり得るような形態であることを要するとし、A管理組合の提出書面をもって本件規程所定の書面とは評価できない。
③本件規定の前記趣旨⇒特定行政庁は、同一敷地内建築物認定をするに当たり、提出書面の記載内容から法の趣旨にかなった説明措置が実施されたかを審査しなければならないと解すべき。
⇒
本件認定処分には瑕疵があったとみる余地がある。
行政処分に瑕疵がある場合であっても、その後に当該処分の要件が満たされたときには当該瑕疵が治癒する場合がある(最高裁)ところ、法律が慎重な判断を求めて詳細な手続的要件を定めていたにもかかわらず、これを無視して行政処分がされた場合にその瑕疵の治癒が認められるとはいえないところであって(最高裁)、瑕疵の治癒が認められるかどうかは、①処分内容の趣旨・内容、②瑕疵の程度、③事後的にされた措置の内容、④瑕疵が関係者に与えた影響⑤その他諸般の事情を考慮して判断すべき。
①当初の説明措置が最も利害関係が強いと思われる隣接地権者に対してなされたこと、②本件認定処分後に法の趣旨に沿った説明措置が追加されたこと、③説明措置は他の地権者に同意権を与えたものではない上、④他の地権者がその予想を超える不利益を受けないことなどの本件事情
⇒本件認定処分に瑕疵があったとみる余地があるとしても、これが治癒されたものと解するのが相当。
<解説>
行政処分につき処分時に処分要件を欠く瑕疵がある場合は違法として取り消されるのが原則。
処分後の事情により処分要件が具備され、処分を取り消しても同一の処分が繰り返されることが予想されるときは、行政経済や法的安定性の見地から瑕疵の治癒を認めるべき場合があると解されている。
(もっとも、瑕疵の治癒は、法律による行政の原理から安易に認めるべきではないとされる。)
本判決は、その引用する最高裁判決の判示内容等から、瑕疵の治癒に係る考慮要素を括り出し、これを本件について検討した結果、処分要件の趣旨・内容に照らして瑕疵は軽微であって事後的に処分要件を具備しており、関係者への影響も大きくない⇒本件認定処分に瑕疵があったとみてもそれは治癒されている旨判断。
敷地所有者の承諾を欠く建築基準法上の道路位置指定処分につき瑕疵の治癒を認めた例(裁判例)あり。
判例時報2313
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