国税徴収法違反事件について、原審の再審開始棄却決定を取り消して再審開始決定をした事例
大阪高裁H27.10.7
<事案>
有罪が確定した事実:
請求人XがA及びBと共謀の上、Aが経営する風俗営業店の財産に対する税金の滞納処分の執行を免れる目的で、その店の営業をBに仮装譲渡等して財産を隠滅した。
確定審での主たる争点:
AからBに対する営業の仮装譲渡についてのXとA・B間の共謀の有無。
検察官は、AがXに仮装譲受人の紹介を依頼したところXがBを紹介し順次共謀が成立したと主張。
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
二 原判決の証拠となつた証言、鑑定、通訳又は翻訳が確定判決により虚偽であつたことが証明されたとき。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
<証拠>
確定一審の証拠構造は、
共謀の直接証拠であるA旧証言、B調書並びに共謀の間接証拠であるC調書。
本件再審請求における新証拠:
Aの新供述(公証人に対する宣誓供述書と再審即時抗告審における証言(「A新供述」))とCの同僚の行政書士Eの宣誓供述書(「E新供述」)
いずれもA旧証言とB調書の信用性を弾劾するために提出。
<原決定>
請求人の請求を棄却。
<判断>
本件主要新証拠により、A旧証言とB調書の信用性に大きな疑問が生じた
⇒刑訴法435条6号所定の事由に該当するとして原決定を取り消し、再審開始の決定。
①Aが虚偽供述に及んだとして述べるところは、旧証言時にAが置かれていた状況に照らすと、十分に理解できる。
②自らの刑責を少しでも軽くするために偽証に及んだというA新供述は、直ちにこれを虚偽であるとして排斥することができない。
③A旧証言の信用性に疑問を抱かせる事情の存在。
⇒
本件主要新証拠を踏まえると、A旧証言の信用性を支える事情が大きく崩れる。
④請求人が本件に関与したことによる経済的利益を全く得ていないことを併せて考慮すると、請求人において、上記のような積極的な意図があったと直ちに認めるのは困難。
⑤「党勢拡大」という動機にも疑問が残るというべきである。
⇒
本件主要新証拠を踏まえると、A旧証言及びB調書の信用性には大きな疑問が生じ、請求人の共謀を認定することには合理的な疑いが残るというべきであるから、その他の新証拠について検討するまでもなく、本件は刑訴法435条6号所定の「無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したとき」に該当。
<解説>
本件の最も重大な争点は、確定判決を支えたA旧証言とこれを弾劾する新証拠として提出されたA新供述の、各信用性の判断。
本件確定審では、Bの方は、法廷でXの無罪主張に沿う証言をしている(⇒そのためこれを相反するB調書が証拠採用されている。)
Aの方は、Xが在廷する法廷においてXとの共謀を認める証言をし反対尋問にも答えている
⇒後日にこれを覆したとしても、よほどの事情がない限り旧証言の信用性は崩れない。
本決定は、この点を綿密に検討し、その「よほどの事情」が認められると判断。
判例時報2309
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