保護責任者遺棄致死事件(無罪⇒有罪⇒破棄差し戻し)の事例
最高裁H26.3.20
<事案>
夫婦である被告人両名が、妻の妹であり、統合失調症の診断を受けていた被害者を引き取って同居。
被害者が極度に衰弱し、歩行するなどの身動きも一人では不自由な状態⇒保護義務⇒被告人両名が、共謀の上、被害者に医師の診断等の医療措置を受けさせず、被害者を死亡させた。
<規定>
刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
<一審>
被害者の衰弱状態などについて述べる医師や飲食店店員の証言は信用できる。
⇒被告人両名を有罪とし、いずれも懲役6年に処した。
<原審>
①上記2名の証言は信用できない
②第一審判決には論理則、経験則等に照らして不合理な点がある。
⇒
事実誤認を理由に第一審判決を破棄して差し戻した。
<判断>
元判決は、
①医師の証言について、医学的な専門知識等に基づく証言であることなど信用性を支える根拠があるのにこれを考慮せず
②証言内容の一部が他の証言部分の信用性を失わせるものとはいえないのに失わせるなどとし、
③店員の証言について、被害者の外見上の状況に関して述べる部分が重要であるのに証言の中心部分ではない周辺的な事情に関する食い違いを理由に証言の信用性に疑問があるなどとしている
⇒
このような信用性評価は正当とはいえず、そのような誤った信用性評価を前提に、第一審判決の認定を是認できないとしたのは、第一審判決について、論理則、経験則等に照らして不合理な点があることを十分に示したものとは評価することができない。
⇒
刑訴法382条の解釈適用を誤った違法がある。
<解説>
●控訴審における事実認定の審査方法
最高裁H24.2.13:
刑訴法382条の事実誤認とは、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。
⇒控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることをを具体的に示すことが必要であるというべきである。
本判決は、刑訴法382条の解釈適用に関し、第一審判決が有罪の場合であっても、論理則、経験則違反説が妥当する旨を示したもの。
判例時報2311
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