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2016年12月 4日 (日)

弁護側証人に対する犯人隠匿容疑での捜索差押え・取調べ⇒公判供述の信用性を否定

大阪高裁H28.3.15    
 
<事案>
検察官の行った被告人側証人予定者に対する事前面接(いわゆる証人テスト)の妥当性が問題となった事例。 

捜査機関が弁護側証人に対して犯人隠匿容疑での捜索差押え・取調べ⇒証人が供述を変更。

弁護人は、Bへの事情聴取は、公判中心主義の理念に反するとともに、証人尋問におけるBの供述を妨害する目的で行われた強制捜査の濫用であり、このような捜査の影響下にあるBの公判供述は強要されたものに等しく任意性を欠く⇒B証言の証拠能力を争った。
 
<規定>
刑訴法 第191条の3(証人尋問の準備)
証人の尋問を請求した検察官又は弁護人は、証人その他の関係者に事実を確かめる等の方法によつて、適切な尋問をすることができるように準備しなければならない。

刑訴法 第299条〔証人等の氏名等開示と証拠等の閲覧〕
検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
②裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。

刑訴法 第316条の14〔検察官請求証拠の必要的開示〕
検察官は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠(以下「検察官請求証拠」という。)については、速やかに、被告人又は弁護人に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない。

二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等(供述書、供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるもの又は映像若しくは音声を記録することができる記録媒体であつて供述を記録したものをいう。以下同じ。)のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。

刑訴法 第316条の18〔被告人・弁護人の請求証拠の開示〕
被告人又は弁護人は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠については、速やかに、検察官に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない。
一 証拠書類又は証拠物 当該証拠書類又は証拠物を閲覧し、かつ、謄写する機会を与えること。
二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧し、かつ、謄写する機会を与えること。

憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
②刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
 
<原審>
Bの証言の信用性を肯定。
 
<判断>
本件で検察官のとった行動は、「証人の事前面接の域を相当に逸脱した不当なものといわざるを得ずBには、原審公判供述当時、自らが罪に問われるのを免れるため、検察官に迎合し、虚偽の供述をする動機があった」
Bの証言の信用性を否定

被告人の自白など他の証拠から被告人に対する有罪判決は維持できる
⇒被告人からの控訴は棄却。
 
<解説>
●相手方当事者の事前面接の可否
A:積極説
検察官請求証人に対する弁護人による事前面接の場合を想定したものだが、証人尋問は、被告人の有罪・無罪を決める重要な手続であり適切な証人尋問には事前の「証人テスト」が不可欠であるとして、事前面接を憲法37条2項の証人審問権と包括的防御権から積極的に根拠づけようとする見解。

B:消極説
相手方当事者が事前面接を行うと、追及的になりがちであり、反対尋問予定者が自己の欲する方向に証言の内容を誘導する不当な働きかけを行う危険性が否定できない。

裁判例:
検察官の指示による警察官が証人に事前面接して作成した供述録取書を検察官が刑訴法328条に基づく弾劾証拠として請求⇒公判中心主義および当事者対等の原則に反するとして、採用しなかった事例。
一般論として、弁護側請求証人を検察官が事前に呼び出して取調べを行うことは避けるべきとしつつ、事前の解決としては、被告人の買収による偽証教唆という特別の事情があったために適法とした事例。

●本件
少なくとも、被告人側請求証人について捜査機関が事前面接をすることには一定の制約があることを事例に即して判断したもの。

◎ 被告人側請求証人が自らの信じるところを証言しようとしたことを捉えて、虚偽の供述と一方的に評価し、処罰の威嚇のもと、検察官にとって都合の良い供述を迫ることは、証人の証言を歪曲し、被告人の証人審問権(自己に有利な証人を提出する権利)を侵害しかねない危険性を内在

被告人側請求証人に対する事前面接の可否及び限界について、検察官に対して慎重な判断を促している。

とくに、取調べと供述調書に過度に依存する捜査・公判のあり方を改め、活発で充実した公判審理を実現するという目的を掲げて改正された刑事訴訟法⇒相手方証人の証言に対する疑問は、公判廷における反対尋問を適切に活用して弾劾する方法によるという方向性
 
法定外において有罪立証方向の虚偽供述を行い、公判廷でもその供述を維持するという動機付けが処罰の威嚇によってなされる構造。 

判例時報2306

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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