法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認規定)の該当性
最高裁H28.2.29
<事案>
①㈱IDCフロンティア(「IDCF」)は、平成21年2月2日、ソフトバンクの完全子会社であったソフトバンクIDCソルーションズ(「IDCS」当時、多額の未処理欠損金額を保有)から、新設分割により新設された。
②IDCSは、同月20日、ヤフー㈱に対し、IDCFの発行済み株式全部を譲渡(「本件譲渡1」)。
③ソフトバンクは、同意月24日、ヤフーに対し、IDCSの発行済み株式全部を譲渡(「本件譲渡2」)。
④ヤフーは、同年3月30日、ヤフーを合併法人、IDCSを被合併法人とする吸収合併を行った。
IDCFは、本件各事業年度に書かう各法人税の確定申告に当たり、本件分割は法人税法施行令4条の2第6項1号に規定されている完全支配継続見込み要件(分割後に分割法人と分割承継法人との間に当事者間の完全支配関係が継続することが見込まれているという要件)を見たしていない⇒法人税法2条12号の11の適格分割に該当しない分割であり、法62条の8第1項の資産調整勘定の金額が生じたとして、同条4項及び5項に基づき、前記の資産調整勘定の金額からそれぞれ所定の金額を減額し損金に算入。
四谷税務署長(処分行政庁)は、組織再編に係る行為又は計算の否認規定である方132条の2を適用し、資産調整勘定の金額は生じなかったものとして所得金額を計算した上で、IDCFに対し、本件各事業年度の法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分。
⇒
IDCFが、被上告人に対する国(被告・被控訴人)を相手に、本件に法132条の2は適用されないなどと主張して、本件各更正処分等の取消しを求める事案。
<判断>
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいい、その濫用の有無の判断に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当。
新設分割により設立された分割承継法人が当該分割は適格分割に該当しないとして資産調整勘定の金額を計上した場合において、分割後に分割法人が当該分割承継法人の発行済株式全部を譲渡する計画を前提としてされた当該分割は、翌事業年度以降は損金に算入することができなくなる当該分割法人の未処理欠損金額約100億円を当該分割承継法人の資産調整勘定の金額に転化させ、これを以後60か月にわたり償却し得るものとするため、本来必要のない前記譲渡を介在させることにより、実質的には適格分割というべきものをこれに該当しないものとするべく企図されたものといわざるを得ないなど判示の事情の下では、法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる。
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」とは、更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく、同条各号に掲げられている法人の行為又は計算を意味する。
<解説>
●組織再編税制で課税上の取扱いが異なるのは、まず第1に、その組織再編成が適格か非適格かという点にある。
①適格組織再編成⇒その移転資産等について帳簿価額による引継ぎをしたものとされ、譲渡損益のいずれも生じない(法62条の2以下)
②非適格組織再編成⇒その移転資産等を時価により譲渡したものとされ、譲渡損益を益金又は損金の額に算入しなければならない(法62条)。
⇒
組織再編成における租税回避でまず想定されるのは、不当な行為又は計算により、本来は非適格組織再編成であるものを適格組織再編成とし(適格作り)、あるいは、本来適格再編成であるものを非適格組織再編成とする(適格外し)場合。
「適格外し」について、法132条の2の典型的な適用場面の1つであると考えられていた。
本件は、それが実際に行われた事案。
●具体的な考慮事情
◎本件の一連の組織再編に係る行為の意図等
本件の一連の組織再編に係る行為は、IDCSが有していた未処理欠損金額のうち平成22年3月期以降は損金に算入することができなくなる約124億円を余すところなく活用するため、前記未処理欠損金額のうち約100億円をIDCFの資産調整勘定の金額に転化させて以後60か月にわたり償却し得るものとするべく、ごく短期間に計画的に実行されたもの。
◎本件計画(本件譲渡1を行う計画)の意図等
適格分割の要件である完全支配継続見込み要件を満たさないことになるように、本件分割と本件譲渡2との間に本件譲渡1を行う本件計画が立てられ、実行された。
◎本件分割の実質
本件譲渡1の4日後に行われた本件譲渡2により、IDCSはIDCFと共にヤフーの完全子会社となり、その翌日にヤフーとIDCSとの間で合併契約が締結され、その約1か月後に本件合併の効力が生じている。
⇒
本件の一連の組織再編成を全体としてみれば、IDCSによる移転資産等の支配は本件分割後も継続しており、本件分割は適格分割としての実質を有すると評価し得る。
◎本件計画の事業目的等の有無
①仮に本件分割後に本件譲渡1が行われなくとも、本件譲渡2と本件合併によりヤフーによるIDCSの吸収合併とIDCFの完全子会社化は実現された
②本件譲渡1の対価である115億円が本件譲渡2及び本件合併によりいずれヤフーに戻ることが予定されていた
⇒
本件譲渡1を行うことにつき、税負担の減少以外に事業目的等があったとは考え難い。
⇒
本件分割は、本件計画を前提とする点において、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づくものであるのみならず、これにより実態とは乖離した非適格分割の形式を作出するものであって、明らかに不自然なものであり、税負担の減少以外にその合理的な理由となる事業目的等を見出すことはできない。
●法132条の2にいう「その法人の行為又は計算」の意義
IDCFは、法132条の2にいう「その法人の行為又は計算」の「その法人」とは、その文理上、更正又は決定を受ける法人のみを意味すると解すべきと主張。
原審(最高裁と結論同じ)の理由付け
①法132条の2は、組織再編税制の趣旨に鑑み、分割に伴う分割承継法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合も対象としていることは明らか。新設分割にあっては、分割承継法人(新設分割設立会社)が設立されるまでは、当該法人は存在せずその行為又は計算を観念することができない。
⇒
分割法人(新設分割会社)の分割行為など分割承継法人以外の法人の行為又は計算を否認して分割承継法人の法人税につき更正又は決定をすることも予定していると解される。
②「その法人」が「法人税につき更正又は決定を受ける法人」の趣旨であれば、例えば「その更正又は決定に係る法人」と表現されるはず
③同条と共通する趣旨・目的を有する所得税法157条4項及び相続税法64条4項が、専ら個人が納税義務者となる所得税及び相続税又は贈与税についての更正又は決定に関し、法人の行為又は計算を否認することができる旨を定めている。
判例時報2307
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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