(軽微な)暴行保護事件での医療少年院送致決定に対する抗告(棄却)
東京高裁H27.1.30
<事案>
非行時15歳の少年が、在籍中の中学校に登校した際、その服装を注意した教諭と口論となり、もみあいとなる中、その足を蹴った⇒医療少年院送致の決定⇒在宅処遇が相当であるとして抗告。
<解説>
●
少年保護事件の審判対象は、(1)非行事実及び(2)要保護性。
(2)の要保護性は、
①犯罪的危険性(塁非行性ないし非行性)、
②矯正可能性(保護処分による矯正教育を施すことによって、前記の危険性を除去しうる可能性があること。医学的にみて治癒する可能性のない精神障害者や、犯罪性の特に強い者は、精神衛生法(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)の措置や刑事処分によるべきと考えられる。)、
③保護相当性(保護処分による保護が最も有効適切な保護手段であると認められること。塁非行性、矯正可能性があっても、なおかつ福祉的措置に委ねるのを相当とする場合及び刑罰を科すのが社会の法感情にかない、教化上最も有効な保護手段と認められる場合には、要保護性は否定される。)
で構成される。
●
実務的には、要保護性に重点を置いて処遇を選択する立場が有力。
非行事実が軽微であっても、少年の犯罪的危険性(塁非行性ないし非行性)が高いことが客観的に認定⇒少年にとって不利益性の高い処遇を選択することも許される。
逆も妥当。
東京高裁H27.9.25:
高額の成り済まし詐欺に現金受取役として関与した少年につき、非行性がさほど深化しておらず、内省を深めつつあり、活用可能な社会資源も十分ある
⇒社会内における専門家の指導を併せ受けることにより、少年の抱える問題を踏まえた改善・更生を図る余地が残されている。
⇒試験観察に付すことを含め、在宅処遇の可能性を十分に検討することなく、直ちに少年を第一種少年院に送致することとした処分は著しく不当であるとしてこれを取り消し。
●
本件少年の要保護性は相当高い。
本件では、少年は医療少年院に送致。
←
少年の各種問題行動には、少年が少年時の交通事故により負った高次脳機能障害の後遺症が影響していると考えられ、問題行動の改善には医療的措置が必要と考えられた。
少年院の在院者を他の少年院に移送することは矯正機関の権限あるが(少年院法134条)、家庭裁判所が、医療措置終了後の移送先少年院の種別に関する処遇勧告を行っていない場合、運用上は、家庭裁判所の意見を聴いて行うこととされている。
本件では、原裁判所は、決定に際し、移送先少年院として初等少年院に送致すべきであるとの処遇勧告。
医療少年院における医療的措置により感情統制力等を回復させた上、少年に対し、初等少年院において生活指導を実施するためには一定期間が必要。
⇒収容期間が6か月以内とされる一般短期処遇に馴染まないことは明らか。
判例時報2308
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