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2016年12月21日 (水)

近畿運輸局長による公定幅運賃の範囲の指定の違法性とそれを下回る運賃の届出をしたタクシー業者による差止めの訴え(いずれも肯定)

大阪地裁H27.11.20       
 
<事案>
道路運送法では一般乗用旅客自動車運送事業者(タクシー事業者)は運賃を定めて国土交通大臣の認可を受けなければならない(9条の3)。 

特措法:
準特定地域内におけるタクシー事業者は公定幅運賃の範囲内で運賃を定め国土交通大臣に届出なければならない。

国道交通大臣は、
①タクシー事業者から届出られた運賃が公定幅運賃の範囲内にないときは、タクシー事業者に対し運賃を変更すべきことを命ずること(運賃変更命令)ができるものとされ、
②この運賃変更命令に違反するタクシー事業者に対しては、6月以内の期間を定めて自動車等の使用停止(使用停止処分)
③タクシー事業の許可の取消し(事業許可取消処分)をすることが可能となる。

原告が、近畿運輸局長から公定幅運賃の範囲を下回る運賃を届け出たことを理由として運賃変更命令を受けるおそれがあり、さらに、運賃変更命令に違反したことを理由として使用停止処分及び事業許可取消処分(以下「本件各処分」)を受けるおそれがあるなどと主張して、被告に対し、本件各処分の差止めを求める事案。
 
<規定>
行訴法 第3条(抗告訴訟)
7 この法律において「差止めの訴え」とは、行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合において、行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟をいう。

行訴法 第37条の4(差止めの訴えの要件)
差止めの訴えは、一定の処分又は裁決がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り、提起することができる。ただし、その損害を避けるため他に適当な方法があるときは、この限りでない。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分又は裁決の内容及び性質をも勘案するものとする
 
<判断>
●差止めの訴えの訴訟要件(本件処分の蓋然性及び重大な損害) 
本件処分の蓋然性 
①原告の対応等⇒運賃変更命令を受けることになったとしても公定幅運賃の範囲を下回る運賃でタクシー事業を継続する可能性が高い
②近畿運輸局長が定めたタクシー事業者に対する行政処分等の基準では、運賃変更命令に違反した場合、初違反で60日車の自動車等使用停止処分、再違反で事業許可取り消し処分。

本件各処分がされる蓋然性あり

重大な損害を生ずるおそれの有無 
差止めの訴えの要件である「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには、処分がされることにより生ずるおそれのある損害が、処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する(最高裁H24.2.9)。

本件処分基準⇒本件各処分が短期間の内に反復継続的かつ累積加重的にされるものと認められ、その結果、事業許可取消処分に至った場合にはタクシー事業の遂行事態が不可能となる。
⇒「重大な損害を生ずるおそれ」がある。

●近畿運輸局長の裁量権の逸脱濫用の有無
①特措法改正の経緯等⇒特措法が公定幅運賃制度を導入した趣旨は、タクシーの供給過剰による運転者の労働条件の悪化や、それに伴う安全性やサービスの質の低下等を防止し、利用者の利便を確保することにあると解される。
道交法に基づく認可を受けて下限割れ運賃で営業していたタクシー事業者については、当該事業者に当該運賃による営業を認めたとしても、直ちに低額運賃競争が行われ、運転者の労働条件の悪化や、それに伴う安全性やサービスの質の低下等が生ずるということはできない
③近畿運輸局長は、大阪市域交通圏において下限割れ運賃で営業していた原告等のタクシー事業者の運賃や経営実態等を全く考慮せずに公定幅運賃の範囲を指定

その判断は、判断の過程において考慮すべき事項を考慮しなかったことにより合理性を欠くものと認められる。

公定幅運賃の範囲の指定については近畿運輸局長の裁量権の逸脱又は濫用があると認められ、前記指定を前提に本件各処分をすることも裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法となる。

判例時報2308

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