妻に対する遺族厚生年金不支給決定が取り消された事例
東京地裁H28.2.26
<事案>
妻子を残して家出し不倫相手と同居していた夫が死亡⇒妻が行った遺族厚生年金の申請に対し、行政庁が生計維持要件を充たさないことを理由に不支給処分(本件処分)⇒妻がこれを違法として、国に対し、①本件処分の取消しと、②行政庁が妻に年金の支給裁定をすることの義務付けを求めた事案。
Aは別居後自らの企業年金等をXに渡さなくなったが、別居に際して現金、X名義の預貯金、証券等は残して行き、Xはその一部を生活費に当て、A名義の自宅に居住。
<判断>
①について、XはA死亡の当時、厚年法59条1項の生計維持要件を充足していたと認められるとして本件処分を取り消すとともに、②について行政庁に対し遺族厚生年金の支給裁定をすべき旨を命じた。
<解説>
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遺族厚生念金は、厚生年金の被保険者であった者が死亡した場合にその遺族の生活保障を目的として支給される。
国民年金法の遺族基礎年金が定額の年金であるのに対して(同法38条以下)、遺族厚生年金は報酬比例の年金で遺族の従前の生活の一定の維持を目的とし、生存配偶者の老齢基礎年金や遺族基礎年金の上乗せという性格をもつ。
厚年法59条1項は、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者等の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持したものとすると定め、①被保険者と一定の身分関係のあること及び②生計維持関係のあったこと(生計維持要件)を受給の要件とする。
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遺族のうち配偶者(配偶者要件)には事実婚の配偶者も含まれるが(同法3条2項)、受給権を有し得る配偶者は1人が限られることが前提となっている(厚年法60条2項)⇒死亡した被保険者等が重婚的内縁関係にあった場合、法律婚と事実婚のいずれの配偶者に受給資格があるのかが問題となる。
重婚的内縁配偶者がいても原則として法律婚の配偶者が「配偶者」に該当し、法律婚関係が実体を失い形骸化してその状態が固定化し近い将来解消される見込みのないときに限り、法律婚であっても配偶者要件を充たさないとするのが現在の判例(最高裁)。
~
原則法律婚。
法律婚が事実上離婚状態にあるか否かによって判断。
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生計維持要件の認定は、政令に託され(厚年法59条4項)、厚年法施行令3条の10は被保険者等の死亡当時に生計同一要件及び収入要件を充たす場合に生計維持関係があると定める。
生計同一要件と収入要件の認定基準は厚労省年金局通知「認定基準」に拠り、生計同一要件は同基準三(1)①ア~ウで「住民票上同一世帯に属しているとき」等に該当する場合とされている。
これらに該当しない場合でも、この基準により整形維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり、かつ社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には例外が認められる(例外条項)。
本判決では、「認定基準」に基づく生計同一要件は満たさないが例外条項に当たるとしてXの各請求を認容。
その判断に際して、Xの経済的依存状況につきAからの定期的な生活費の付与に限定せず、実質的夫婦共有財産である現金、預貯金、証券や婚姻住居の利用を勘案した点に特徴。
判例時報2306
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