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2016年11月16日 (水)

美容外科における説明義務違反の不法行為(肯定)

大阪地裁H27.7.8      
 
<事案>
原告は、被告が施術したスーパーリセリング(美容施術)の効果が全くなかったこと、事前の検査義務違反、説明義務違反があったこと等を主張、⇒債務不履行又は不法行為に基づき、約360万円(治療費、化粧品代、逸失利益、慰謝料、弁護士費用)の支払を求めた。 
 
<争点>
①事前の適用検査義務を怠った過失又は注意義務違反の有無
②説明義務を怠った過失又は注意義務違反の有無
③相当因果関係
④損害の発生 
 
<判断>
●争点②について 
①美容診療が生命身体の健康を維持ないし回復させるために実施されるものではなく、医学的に見て必要性及び緊急性に乏しいもの
②美容という目的が明確で自由診療に基づき安価とはいえない費用で行われるもの

美容診療による客観的な効果の大小、確実性の程度等の情報は、美容診療を受けるか否かの意思決定をするにあたって特に重要と考えられる。

美容診療を受けることを決定した者とすれば、医師の特段の説明ががない限り、主観的な満足度はともかく、客観的には美容診療に基づく効果が得られるものと考えているのが通常。

効果が客観的に現れることが必ずしも確実ではなく、場合によっては客観的な効果が得られないこともあるというのであれば、医師は美容診療を実施するにあたり、その旨の情報を正しく提供して適切な説明をすることが診療契約に付随する法的義務として要求される。

医師が上記のような説明をすることなく、美容診療を実施することは、診療対象者の期待と合理的意思に反する診療行為に該当するものとして、説明義務違反に基づく不法行為ないし債務意不履行を免れないと解するのが相当。

原告が、担当医師から美容効果が確実でないことについて説明を受けていたとしてもスーパーリセリングを受けた蓋然性が高かったものとは認められない。
⇒不法行為に基づく損害賠償義務を負う

●争点③も肯定 

●争点④は、スーパーリセリングに要した費用全額を損害と認定したほか、慰謝料、弁護士費用も一部認容。 
 
<解説>
●説明義務違反 
美容外科においては、他の診療科に比べ、医師の説明義務が過重されると解する裁判例(京都地裁昭和51.10.1)
右目背にある腫瘤(右目結膜類皮腫)の摘出手術における説明義務が問題となった事案について
「特に本件のように美容に重点があり、是非必要とする手術でない場合は一層然りといわねばならず、それに伴う責任の免除は医師が患者に合併症について十分な説明を行い、患者が尚且これを望んだ場合にのみ与えられるべきものであり、然らざる限り契約に反する違法な侵襲となり医師はそのために生じた損害賠償の責めを免れない」とする。

説明義務の加重

①美容外科は、他の診療科と異なり、疾患のない患者に対して美容という主観的願望を満足させることを目的としており、美容外科医療を行わなくとも患者の健康状態が悪化することはない⇒医学的適応性(必要性)及び緊急性が乏しい又は存在しない
②多くの場合、医療機関が宣伝により顧客を誘引しており、施術が高額な自由診療として実施される⇒消費者取引的側面がある。
 
●損害(因果関係) 
医師の説明義務違反が認められる場合、因果関係があるとされる損害の範囲:
①説明義務違反による自己決定権の侵害に対する慰謝料
②さらに生じた悪しき結果(後遺障害等)に起因する損害
③施術費用総合額の損害
仮に十分な説明を受けていれば、患者が当該美容診療を受けなかったであろうと認められる場合⇒説明義務違反と生じた悪しき結果等の間に因果関係が認められる。
そのような認定ができない⇒生じた悪しき結果との間にまで因果関係は認められない。

本判決:
説明義務違反と相当因果関係のある損害の範囲について、十分な「説明をしなくても美容診療を受けようとする者がすでに当該美容診療の効果が確実ではないことを認識していたなどの特段の事情のない限り、当該医師による・・・説明がなされなかった結果、当該美容診療によって美容効果が確実に得られるかのような錯誤に陥り、そのような誤解に基づいて当該美容診療を受けるに至った」ものと認められる

本件では、「特段の事情」の立証がないとし、「原告が(担当医)から美容効果が確実でないことについての説明を受けたとしても(本件美容診療)を受けた蓋然性が高かったものとは認められない」とした。

本件美容診療の施術日相当額について、「説明義務違反により、原告が錯誤に陥った状態の下で支払われたものであることからすると、その全額が原告の損害と認めるのが相当であ」ると判断。
本判決は、不法行為責任を認めながら、損害として原告が被告に支出した治療費の全額を損害としている。
一般に、診療契約の法的性質については、①準委任契約説、②請負契約説、③無名契約説の対立があり、裁判例では(治療を中心とした事務処理を目的とする)準委任契約を解するものが多い。
but
美容診療の場合、治療というよりは、美容を主たる目的としているので請負契約的側面が強い。
⇒医師が患者に約束した結果が得られない場合、債務の本旨に従った履行がないとして治療費全額を損害と認定することも自然
といえる。

債務不履行責任ではなく、不法行為責任を認定したのは、治療費全額を損害とするだけでは不十分であり、慰謝料及び弁護士費用も損害とすることが相当としたとも考えられる。

判例時報2305

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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