建設業者に対する営業等停止処分について、処分の執行停止を認めた事例
佐賀地裁H27.7.10
<事案>
佐賀県知事が、建設業法28条3項に基づき、Xに対して、公共工事に係る土木工事業に関する営業等の停止を命じる処分⇒Xが、同処分の取消しを求める本案事件を提起した上、行政事件訴訟法25条2項本文に基づき、同処分の執行の停止を求めた。
<規定>
行政事件訴訟法 第25条(執行停止)
処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない。
2 処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
3 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
4 執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、又は本案について理由がないとみえるときは、することができない。
<解説>
建設業法28条3項、同条1項3号は、国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者(建設業者が法人であるときは、当該法人又はその役員等)又は政令で定める使用人(以下「建設業者等」)がその業務に関し他の法令(入札契約適正化法及び履行確保法並びにこれらに基づく命令を除く。)に違反し、建設業者として不適当であると認められるときは、その者に対し、1年以内の期間を定めて、その営業の全部又は一部の停止を命ずることができる。
<争点>
執行停止の要件である、
① 「処分により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要がある」か(行訴法25条2項本文)
②「本案について理由がないとみえる」か(行訴法25条4項)
<判断>
争点①について:
①Xの経常利益のほぼ全てを、大部分が公共工事の施工を行う土木部の上げる利益で占めており、
②本件処分によりこれらの公共工事の営業の停止が命ぜられることになることなどが一応認められ、
③本件処分によりXの売上が大きく減少し、赤字に転落するおそれがある
⇒
「処分により生ずる重大な損害を避けるための緊急の必要」の疎明がある。
争点②について:
①建設業者等の「他の法令(入札契約適正化法及び履行確保法並びにこれらに基づく命令を除く。)に違反し」た行為(以下「法令違反行為」)が、当該建設業者の事業の態様、規模等からして、客観的には当該建設業さhの業務に関するものと認められる場合であったとしても、当該法令違反行為について、当該建設業者等が自らの私的な行為であって当該建設業者の業務に関しないものであるという主観を有しているときには、法28条1項3号の「業務に関し」という要件に該当しないと解する余地がないとはいえない
②本件では、Aが本件贈賄について自身の私的な行為であるという主観を有していたと認める余地もある
⇒本件贈賄がAのXにおける「業務に関し」行われたものであるか否かを判断するため、前記法解釈のほか、同解釈によっては事実関係についてさらなる審理を尽くす必要があることを否定できない
⇒
現段階では「本案について理由がないとみえる」とまではいい難い。
<解説>
業務の停止を命じる行政法25条2項所定の「重大な損害」を検討したい判例・判決例について、「損害の回復の困難の程度」 (行訴法25条3項)を、被処分者の社会的信用、顧客の継続保有可能性等の観点を併せて具体的に検討するものが多い。
「本案について理由がないとみえる」とは、本案における訴訟手続がなお進行することを前提に、双方の当事者の主張及び疎明資料に基づき、本案における申立人の請求に理由がないと一応認められことをいうなどとされるが、法解釈の当否についても、それが争点となり、本案における審理を尽くした上で判断されるべきと考えられる場合には、同要件を満たさない。
本件の本案事件について、佐賀地裁は、建設業者の業務と客観的に関連性を有する行為について法令違反が存在した場合には、当該業者が、「建設業者として不適当である」か否かを判断して監督処分の要否を検討する必要がある
⇒
法28条1項3号の「その業務に関し」の意義についても、当該建設業者の事業の態様、規模等からして、客観的にみて当該建設業者の業務に関する行為を指すと解するのが相当⇒Xの請求を棄却。
判例時報2304
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