強盗致死罪は強盗殺人罪に対して、刑訴法435条6号の「軽い罪」となる。
広島高裁岡山支部H28.1.6
<事案>
2件の強盗殺人等の罪で有罪とされ死刑が確定した者から、そのうち1件の強盗殺人罪につき、強盗致死罪であることの新たな証拠を発見⇒再審の請求がなされた事案。
<規定>
刑訴法 第435条〔再審請求の理由〕
再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
六 有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
刑法 第240条(強盗致死傷)
強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。
<判断>
強盗致死罪は、原判決において認めた強盗殺人罪より軽い罪に該当すると解すべきであるとの判断を示した上で、証拠の新規性または明白性を否定し、請求を棄却。
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①強盗殺人罪が故意犯であるのに対し、強盗致死罪は結果的加重犯であって、その違法性には大きな差があり、異なる犯罪類型であるということができ、刑法240条後段は、その構成要件とする結果を導く基本行為に違いを認めていると解され、刑訴法435条6号が規定するのは「軽い罪」であって「軽い刑」ではないから、法定刑が同じ罪を「軽い罪」に当たると解することが文理上不可能であるとまではいえない。
②量刑においても、強盗殺人罪の場合は死刑適用事例もみられるのに対し、強盗致死罪には死刑を適用しない取扱いが裁判の関連となっており、実際の救済の必要性が高い。
③最高裁昭和29.10.19は、違法性に類型的な違いはない事案における判断であり、類型的に違法性に違いがある本件の場合と同一に考えることはできず、その他の最高裁判例も事案が異なり本件には当てはまらない。
<解説>
刑訴法435条6号によれば、①「無罪若しくは免訴」、②「刑の免除」、③「確定判決の罪より軽い罪」を求める再審は可能であるが、
「公訴棄却」や「刑の軽減」あるいは単に「より軽い刑」を求める再犯は予定されていない。
最高裁は、大審院の判例を踏襲し、「軽い罪」とは「その法定刑の軽い他の犯罪」を意味するものと解してきた。
最高裁昭和29.10.19は、
「本件犯行当時の食糧管理法によれば、買受、売渡、運搬の行為はいずれも同法9条1項の規定による命令に違反する行為として法定刑を同じくする同法31条の罰則の適用を受けるものである」との理由から刑訴法435条6号の原判決において認めら罪より軽い罪を認めるべき場合に当たらないとされた。
本判決は、刑法240条後段のように殺人と傷害致死という犯罪類型の異なる行為が強盗との結合犯として同一の法定刑が定められている場合、刑訴法435条6号のいう「軽い罪」に当たるか否かは、法定刑を基準とすることなく、実際の量刑における刑の適用の違い(死刑を適用しているか否か)を踏まえて判断すべきことを示したもの。
判例時報2304
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