死刑制度廃止派と存置派の議論
死刑制度廃止派と存置派の意見をまとめておく(私は存置派です)。
(●死刑廃止)国による殺人は悪。
(▲死刑存置)①刑罰自体に正当性がある。②死刑廃止国も司法外で国による殺人(フランスのシリア空爆や確保時のテロリスト殺害等)を行っている。③懲役刑も国による犯罪(=人の拘束)であるが、刑罰であることから正当化される。
(●廃止)冤罪による死刑を回避する必要。
(▲存置)「冤罪」は抽象的なものではなく、個々の事案による。死刑相当事案の多くは冤罪可能性はなく、そのような事案に死刑を適用しない理由はない。①冤罪可能性のない事案(例えばフランスニースのテロ等はその典型)と②冤罪可能性のある事案を区別し、死刑判決を①に限定すればいい。
(●廃止)死刑は憲法が禁止する残虐な刑罰(憲法36条)であり人権侵害。
(▲存置)まともな憲法学者でそのような意見の学者はいない。
(●廃止)死刑はキリスト教等の宗教的精神に反する。
(▲存置)刑事司法の対象は、宗教家ではなく、一般の人々。(死刑が)宗教上の信念に反する人や死刑制度廃止派は自分が被害者や遺族になった時に加害者を許せばいいだけであり、その価値観を、犯人の死刑を望む一般の被害者や遺族に押し付けるのは傲慢である。
(●廃止)死刑存置派は被害者の利益しか考えていない
(▲存置)加害者の事情(殺人の数・責任能力・動機・情状等)は裁判の中で十分考慮される。加害者に酌むべき事情がない場合の究極の刑罰が死刑。遺族が死刑を望んだからといって死刑になっているわけではない。
(●廃止)死刑に正当性はない。
(▲存置)自分が犯した犯罪に対して「責任」をとることは当然であり、犯した犯罪の重さ(例えば情状の余地のない大量殺人等)によっては死刑という刑罰に正当性がある。
(●廃止)刑罰は国が科すものであり、被害者や遺族が科すものではないから、被害者・遺族の処罰感情は理由にならない。
(▲存置)従来敵討ちが正当なものとして認められていたところ、国が個人にかわって刑罰を科すことになって、敵討ちが禁じられることになった。だから、国による刑罰には、被害者・遺族が納得できるだけの正当性をもつ必要がある。
(●廃止)死刑廃止は欧米の標準である。
(▲存置)欧米に倣えで導入した司法改革は大失敗であり、(欧米型)コーポレートガバナンスも機能しない状況で、無批判に欧米型を受け入れる合理性はない。
(●廃止)フランスのニースのテロのように100人殺し、遺族全員が犯人の死刑を求めても、死刑にできない。
(▲存置)上記のような場合死刑にできる。
(▲存置)被害者や遺族(ある日突然子どもや家族を奪われた遺族等)は最も利害関係のあるステークホルダーであり、いかなる意味でも落ち度はない⇒①被害者や遺族が納得する刑事司法制度であることが必要であるところ、②被害者や遺族の多くや犯罪被害者の権利擁護活動をしている専門家は、死刑存続を求めている。
(●廃止)死刑になるために殺人を犯す人もいる。
(▲存置)「死刑になりたい」というのが殺人の本当の動機なのか疑問だし、そのような人はパーソナリティに問題があるわけで、死刑がなければ、殺人を犯さなかったのかといえば、それは疑問。
現実に、衣食住が確保される刑務所に入るために、窃盗を繰り返す人も少なくない。死刑制度が廃止になれば、長期に刑務所に入るため、車で歩道に突っ込んで人を殺すような人がでてくることが想定される。
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