武富士の仕組債を運用対象金融資産とする信託取引と証券会社の説明義務違反(否定)
最高裁H28.3.15
<事案>
更生会社であるTFK株式会社の管財人Xが、旧武富士において、社債の実質的な早期償還をするために、Y1により組成され、Y2の販売する仕組債(「本件仕組債」)を運用対象金融資産とする信託契約を含む一連の取引を行った際、Yらに説明義務違反等があったと主張し、Yらに対し、不法行為等に基づく損害賠償を求める事案。
本件取引:
旧武富士が本件社債の償還原資を信託し、受託者がその償還原資を金融資産により運用して、その運用利益等を受益者に配当し、受益者がその配当金を原資として本件社債の財務代理人に本件社債の元利を支払うというもの。
Y2は、平成18年2月、旧武富士の担当者らに対し、インデックスCDSを組み込んだ本件仕組債を本件取引における運用対象金融資産とすることを提案し、インデックスCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)について説明。
CDSは、参照対照となる企業その他の組織(「参照組織」)につき、その倒産、不払などのリスクを回避したい者(保証の買手)がそのリスクを引き受ける者(保証の売手)に対し保証料を支払い、その参照組織につき倒産、不払等の事由が発生した場合に保証の売手が保証の買手に対し前記事由に応じた所定の金額を支払うことなどを内容とする金融商品。
複数のCDSの市場価格を平均値により指数化したものを用いたのがインデックスCDS。
<一審>
Xの請求を棄却。
<原審>
①説明した時期がキックオフミーティング以後でかつデューディリジェンスの予定期間の経過後
②旧武富士の担当者が金融取引につき基礎的な知識があるにとどまる
③英文の説明文書の訳文を交付しなかった
⇒Yの説明義務違反を肯定し、一部認容。
<判断>
①本件仕組債の具体的な仕組み全体は必ずしも単純ではないが、上告人メリルリンチ証券は、甲野らに対し、シグマ債を本件担保債券として本件インデックスCDS取引を行うという本件仕組債の基本的な仕組みに加え、本件取引には、参照組織の信用力低下等による本件インデックスCDS取引における損失の発生、発行者の信用力低下等によるシグマ債の評価額の下落といった元本を毀損するリスクがあり、最悪の場合には拠出した元本300億円全部が毀損され、その他に期日前に償還されるリスクがある旨の説明をしたというべき。
②武富士は、消費者金融業、企業に対する投資等を目的とする会社で、その発行株式を東京証券取引所市場第一部やロンドン証券取引所に上場し、国際的に金融事業を行っており、本件取引について、公認会計士及び弁護士に対し上告人メリルリンチ証券から交付を受けた資料を示して意見を求めてもいた。
⇒
武富士において上記説明を理解することが困難なものであったということはできない。
原審は、上告人メリルリンチ証券による①本件担保債券をシグマ債としたこと、②本件仕組債の仮装資本元帳における具体的な記載内容、期日前償還となった場合の清算金額の計算方法等、③本件仕組債の評価額につきシグマ債の発行者の信用状況が影響すること、④本件仕組債に係る費用の正確な額、⑤上告人メリルリンチが本件仕組債の計算代理人に就任することといった事項の提示時期を問題とする。
but
①上記各事項が提示された時点において、武富士が本件取引に係る信託契約の受託者や履行引受契約の履行引受者との間で折衝に入り、かつ、上記事前調査の予定期間が経過していたからといって、本件取引の実施を延期し又は取りやめることが不可能又は著しく困難であったという事情はうかがわれない。
②本件仕組債が上告人メリルリンチ証券において販売経験が十分とはいえない新商品であり、甲野らが金融取引についての詳しい知識を有しておらず、本件英文書面の訳文が交付されていないことは、国際的に金融事業を行い、本件取引について公認会計士らの意見も求めていた武富士にとって上記各事項を理解する支障になるとはいえない。
⇒
上告人メリルリンチ証券が本件取引を行った際に説明義務違反があったということはできない。
<解説>
●
契約交渉に入った者同士の間では、誠実に交渉を行い、一定の場合には重要な情報を相手方に提供すべき信義則上の義務を負い、これに違反した場合には、それにより相手方が被った損害を賠償すべき義務がある(最高裁)。
信義則上の説明義務の有無、具体的な内容は、各当事者の属性(情報格差の有無及び程度、事業者か否か等)、契約交渉の経過(勧誘行為の有無等)、当該情報の重要性(それによる当該情報を得ていない当事者の自己決定権の侵害の有無及び程度等)等から決せられる。
金融取引についての説明義務の内容、程度、方法は、当該商品の仕組み等の複雑性、取引によるリスクの大きさ、これらの周知性、投資家の理解能力等との相関関係によって定まるものと解されている。
●
仕組債取引による下級審裁判例:
原則として、仕組債の販売者は、
①当該仕組債の基本的な内容及び損失が生ずる主要な危険性について説明する義務を負い、原則としてそれらの説明で足りるが、
②当該仕組債が複雑であり、危険性が高ければ、より具体的な説明が求められ、
③顧客の投資経験や理解力によっても、当該販売者の説明すべき内容の具体性が左右される
ものと考えられている。
最高裁は、金利スワップ取引に関する事例判例(最高裁H25.3.7)において、
①前記取引が単純な仕組みであり、企業経営者であれば、その理解が一般に困難でないこと、
②前記取引の相手方である銀行がその基本的な仕組み等及びリスクの説明をしたこと
③前記取引の締結前に顧客に対して交付された書面には、中途解約できないことなどが命じされていたこと
⇒銀行に説明義務違反があったということはできない。
判例時報2302
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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