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2016年10月31日 (月)

生活保護受給者に対する行政指導と生活保護停止処分の適法性(違法とされた事例)

さいたま地裁H27.10.28      
 
<事案>
生活保護を受けていたXが、生活保護法27条に基づく指導又は指示に従わなかった⇒
Xが、①本件指導の違法性、②本件停止処分の違法性を主張して、本件停止処分の取消しを求めた事案。 

平成25年12月、戸建住宅を574万円で売却し、マンションの一室を530万円で購入し、本件マンションに転居。
平成26年1月24日以降、A(春日部市福祉事務所長)から生活保護を受給⇒平成26年2月21日、Xに対し、本件マンションを売却する行政指導⇒Xは売却せず⇒平成26年4月25日付で、法62条3項に基づき、本件停止処分
⇒Xは、埼玉県知事に、本件停止処分についての審査請求をするとともに、本件停止処分の執行停止の申立て⇒当該申立を却下する決定
⇒Xは、本件停止処分の執行停止により生ずる「著しい損害を避けるため緊急の必要がある」(行政事件訴訟法8条2項2号)として、前記審判請求に対する債権を経ないで、本件停止処分の取消しを求める本件訴訟を提起。
同法25条2項に基づいて、本件停止処分の執行停止の申立て⇒本件停止処分の効力を停止する旨の決定(確定)。
 
<規定>
生活保護法 第27条(指導及び指示)
保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。

生活保護法 第62条(指示等に従う義務)
被保護者は、保護の実施機関が、第三十条第一項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第二十七条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。

3 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。
 
<判断>   
Xの請求を認め、本件停止処分を取り消した。
 
●本件指導の違法性 
①法27条1項に基づく指導又は指示が、保護の目的達成のために必要とは認められない場合や、必要と認められる場合であっても、その最小限度を超えるものであるときは違法となり
②指導又は指示が、少なくとも書面でなされようとする場合には、その必要性及び合理性を当該事案の性質や経緯、被保護者又はその世帯の個別事情を十分考慮した上で慎重にされることを要し、その判断の過程及び手続においてそのような考慮を欠き、生活保護の理念及び社会通念に照らして妥当性を欠くものであるときには、保護の実施機関の裁量権を逸脱、濫用したものとして、違法となる。

①本件買換えの動機や経緯に生活保護の理念に抵触するものがなかったこと
②本件マンションの購入によって、Xが生活困窮に陥ったと評価することはできないこと
③本件指導が、Xに対する保護の目的達成のための必要最小限度のものではないか、又はその判断の過程及び手続においてX若しくはその世帯の特殊事情や本件買換えと本件生活保護の申請の経過等に対する十分な考慮を欠き、社会通念に照らして妥当性を欠いている
⇒違法。
 
●本件停止処分の違法性 
指導又は指示が違法である場合には、当該指導または指示に従わなかったことを理由とする不利益処分は違法となり
②指導又は指示が適法であり、当該指導又は指示に従う義務に違反した場合でも、不利益処分をするに当たって、考慮すべき事情を考慮せず、又は考慮された事情に対する評価が合理性を欠き、被保護者に当該不利益処分による不利益を課すことが、生活保護の理念や保護の目的に照らして必要かつ合理的といえず、社会通念上著しく妥当性を欠くような場合には、当該不利益処分は、保護の実施機関の裁量権を逸脱又は濫用するものとして違法となる。

本件は①にあたり、また、仮に、本件指導が適法であったとしても、本件停止処分に当たって、本件事案の特殊事情が十分に考慮され、それらに対する適切な評価がされたとはいえない
本件停止処分は、裁量権を逸脱または濫用したものであって、違法
 
<解説>
生活保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導・指示をすることができ(法27条1項)、被保護者は、当該指導・指示に従う義務がある(法62条1項)。
義務違反に対しては、保護の変更、停止又は廃止といった不利益処分が予定されている(同条3項)。 

判例時報2304

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