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2016年10月30日 (日)

被告人の訴訟能力の欠如と裁判所の判断としての公訴棄却(事案として否定)

名古屋高裁H27.11.16    
 
<事案>
訴訟能力に問題があって長期間公判手続が停止していた被告人について、公訴棄却という形で手続を打ち切った原審についての控訴審の判決。 
 
<問題点>
①平成9年以来公判手続の停止が続けられてきた被告人の訴訟能力の有無及び回復可能性
②回復可能性がない場合に、裁判所が検察官の公訴取消しを待たずに、手続を打ち切ることができるか
③打ち切ることができるのはどのような場合か 
 
<規定>
刑訴法 第314条〔公判手続の停止〕
被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。

刑訴法 第338条〔公訴棄却の判決〕
左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
一 被告人に対して裁判権を有しないとき。
二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。

憲法 第37条〔刑事被告人の諸権利〕
すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
 
<判断・解説>
●被告人の訴訟能力 
非可逆的な慢性化した統合失調症や脳萎縮の影響により、意思疎通能力がほぼ完全に失われている。
訴訟能力の回復に見込みがないといした原判決の判断に誤りがあるとはいえない。
~被告人の訴訟能力に関する専門家の鑑定書や意見書のうち、より信用性が高いと思われるものを採用。

●手続打切りの可能性 
訴訟能力がないという理由で公判手続が停止している事件:
検察官が公訴を取り消すまで、その時々の被告人の訴訟能力を適宜の方法で調査して、公判手続の停止が続く(多くは勾留の執行停止をして、精神病院に収容されており、停止期間延長がされている。)というのが実情。

原審は、理論的な検討を経て、公訴棄却という形式裁判で手続打切りを図った。
訴訟能力を重要な訴訟条件と位置付けた上で、公訴提起後にその条件を欠き、後発的に、「公訴提起の手続がその規定に違反したため無効」になった⇒刑訴法338条4号により控訴棄却。

本判決:
基本的には裁判所が手続を打ち切ることはできない

①刑訴法上の規定丁、訴訟条件を欠いた場合には、管轄違い、公訴棄却、免訴などの形式裁判での手続の打切りが用意されているのに対し、公判手続の停止が続く場合にはそのような規定がない。
②当事者追行主義からみて、訴追の権限を独占的に有している検察官による公訴取消しの合理的な運用が期待されている。
but
高田事件の最高裁判決(最高裁昭和47.12.20)を引用し、検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められるような極限的な場合には、憲法37条1項の趣旨に照らし、裁判所が訴訟手続を打ち切ることができる

●手続打切りの具体的適用 
①長期間にわたって審理が放置されてきた事案と同視できない
②2名のの被害者が亡くなっている凶悪重大事案で、遺族の処罰感情も峻烈

公訴を取り消さない判断をした検察官の裁量を合理的でないと断定することもできない。
検察官が公訴を取り消さないことが明らかに不合理であると認められる極限的な場合には当たらない

原判決は刑訴法338条4号の解釈適用を誤り、不法に控訴を棄却し、原判決を破棄し差し戻した

判例時報2303

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