社会福祉法人の理事による承認決議を経ない金融商品取引と民法110条類推(肯定)
東京地裁H27.10.9
<事案>
社会福祉法人の理事が理事会の承認決議を経ることなく行った投資取引につき、主として民法110条の類推適用の可否、当否が問題となった事案。
XのA理事は、銀行業を営むZ株式会社の従業員の勧誘、説明を受け、平成17年6月、会長B名義で、証券業を営むY株式会社から発行額5億円の為替リンク債を購入(発行体ドイツ復興金融公庫)、同年12月、同様に、発行額3億円のユーロ円建為替リンク債を購入、平成18年9月、当時会長になっていたAは、会長名義で発行額3億円のユーロ円建為替リンク債を購入(発行体ノルウェー地方金融公社)。
以上の契約は、Xの理事会の決議を経ることなく行われていた⇒Xは、Yに対して、各金融商品の購入が理事会決議を経ることなく無断で行われ、無効であると主張し、不当利得返還請求権に基づき購入代金合計11億円の返還を請求。
ZがYのために補助参加。
<規定>
旧民法 第54条(理事の代理権の制限)
理事の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
<争点>
①代金支払につき法律上の原因がないか
②信義則違反・権利濫用の適否
③Yの悪意・重過失
④返還義務の範囲等
<判断>
社会福祉法39条2項は、定款に別段の定めがない場合、社会福祉法人の業務は、理事の過半数をもって決すると定めている。
Xには定款に別段の定めがない
⇒
会長といっても、代表権の行使には理事会決議が必要。
本件契約1ないし3は、Aが独断によって理事会決議を経ることなく締結したもので、社会福祉法上の理事の代表権の制限は、その範囲を超える代表権がはじめから存在せず、本来存在したはずの代表権の制限ではない
⇒民法93条の類推適用は認められない。
社会福祉法人は、同38条ただし書、39条の規定、旧民法54条の準用規定がない⇒事業の公共性に配慮して理事の業務執行についての法人の内部的意思決定を重視するものであるとしつつも、民法110条の類推適用を肯定。
第三者において理事が具体的行為を行うことについて理事会の承認決議を得て適法に法人を代表するものと信じ、かつ、このように信じるにつき第三者に正当な理由があるとき、すなわち第三者には過失がなく、むしろ法人の責に帰すべき事由があるようなときには、法人は、理事が理事会の承認決議を得ないで行った行為について責任を負う。
①AがZの従業員に理事会の承認決議を経た旨の発言をした
②理事会の議事録の提出を求めなかったものの、内部の規定に違反していない旨の記載のある書面に代表者の記名押印を得た
⇒Zの過失はなく、善意無過失。
⇒Zを登録金融機関として商品の仲介を委ねていたYは、Zと同様に善意無過失。
他方で、Xには、Aの言動、提出した書類から帰責事由あり。
⇒
民法110条の類推適用により、本件契約1から3はいずれも有効であるとして、請求を棄却。
<解説>
事業の公共性が比較的強い社会福祉法人の理事の取引につき民法110条の類推適用を肯定。
これは、地方自治体のの長の行為につき同条の類推適用を認める判例(最高裁昭和24.7.14)、漁業協同組合についての最高裁昭和60.11.・29に沿ったもの。
本件のように民法110条の類推適用が認められる場合における「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」の判断は、同条の適用の場合と比較して厳格に評価すべきではないか、容易に理事会の議事録(写しを含む)の交付要求、閲覧をしなかったことをどのように評価するか等の議論があるが、本判決は、公社については善意・無過失の判断を左右しないとした。
判例時報2303
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コメント
高裁で覆りましたよ
最近の判タか金融商事判例か金融法務事情に乗ってます。
投稿: | 2016年10月26日 (水) 00時54分
情報ありがとうございます。見てみます。
投稿: 川村 | 2016年10月26日 (水) 06時06分