法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認規定)の適用
最高裁H28.2.29
<事案>
①ヤフー㈱の代表取締役社長は、平成20年12月26日、ソフトバンク㈱の完全子会社であるソフトバンクIDCソリューションズ㈱(当時、多額の未処理欠損金額を保有)の取締役社長に就任。
②ヤフーは平成21年2月24日、ソフトバンクからIDCSの発行済株式の全部を譲り受け、IDCSをヤフーの完全子会社とした。
③ヤフーは、同年3月30日、ヤフーを合併法人、IDCSを被合併法人とする吸収合併。
ヤフーは、本件事業年度(平成20年4月1日から同21年3月31日までの事業年度)の法人税の確定申告に当たり、本件合併は法人税法2条12号の8の適格合併であるところ、法57条3項の委任に基づく法人税法施行令112条7項5号に想定されている特定役員引継要件(要旨、合併法人と被合併法人の常務取締役以上の役員のいずれかの者が、合併後にそれぞれ合併会社の常務取締役以上の役人になる見込みがあるという要件)を充たしており、適格合併における被合併法人の未処理欠損金額の引継を制限する法57条3項の適用はないとして、同条2項に基づき、IDCSの未処理欠損金額約542億円をヤフーの欠損金額とみなして、同条1項の規定に基づきこれを損金の額に算入。
麻布税務署長(処分行政庁)は、組織再編成に係る行為又は計算の否認規定である方132条の2を適用し、前記未処理欠損金額をヤフーの欠損金額とみなすことを認めず、ヤフーに対し、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分。
⇒
ヤフーが被上告人(国)を相手に、本件副社長就任につき法132条の2は適用されないなどと主張し、本件更正処分等の取消しを求める。
<判断>
●不当性要件
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいう。
その濫用の有無の判断に当たっては、
①当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか
②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか
等の事情を考慮した上で、当該行為又は計算が、組織再編を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当。
①ヤフーがIDCSの発行済株式全部を買収して完全子会社とし、その後IDCSを吸収合併した場合において、ヤフーの代表取締役社長が前記買収前にIDCSの利益だけでは容易に償却し得ない多額の未処理欠損金額を前期の買収及び合併によりヤフーにおいてその全額を活用することを意図して、前記合併後に井上がヤフーの代表取締役社長の地位にとどまってさえいれば法人税法施行令(平成22年政令第51号による改正前のもの)112条7項5号の要件が満たされることとなるよう企図されたものであり、②その就任期間や業務内容等に照らし、井上がIDCSにおいて同号において想定されている特定役員の実質を備えていたということはできないなど判示の事情
⇒
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」に当たる。
●行為主体要件
法人税法(平成22年法律第6号による改正前のもの)132条の2にいう「その法人の行為又は計算」とは、更正又は決定を受ける法人の行為又は計算に限られるものではなく、同条同号に掲げられている法人の行為又は計算を意味する。
<解説>
●不当性要件の意味
ヤフーの主張:
①法132条の2が法132条の枝番
②不当性要件に係る文言の共通性等
⇒
同族会社の行為計算の否認規定である同条1項の不当性要件に係るいわゆる「経済合理性基準」(専ら経済的、実質的見地において当該行為計算が純粋経済人の行為として不合理、不自然なものと認められるか否か)を採用し、かつ、その具体的な内容とし、その通説的見解とみられている「(行為・計算が)異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」という基準を採用すべきである旨主張。
具体的には、「法132条の2の不当性要件は、私的経済取引プロパーの見地から合理的理由があるか、すなわち純経済人の行為として不合理・不自然な行為又は計算か否かという観点から判断されるべきである。そして、純経済人の行為として不合理・不自然とは、行為が異常ないし変則的で、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しない場合をいう」と主張
vs.
①経済合理性基準においては、「純経済人の行為として不自然・不合理であるか否か」という基準が用いられるところ、組織再編成は売買契約や雇用契約などの典型契約とは異なるため、必ずしも一般的な取引慣行や取引相場があるわけではなく、多数の企業が関与して複雑かつ巧妙な租税回避行為が行われた場合、そもそも純経済人(特殊な利害関係のない一般的な経済人)の行為として自然かつ合理的な組織再編成とは何かという議論の出発点からその審理判断に困難を来し、その不当性を適切に判断し得ない場合もあり得る。
⇒法132条の2の不当性要件の該当性の判断基準として経済合理性基準をそのまま用いることは、組織再編成という事柄の性質上、必ずしも適切ではない。
②法132条の2が方132条の枝番となっていることは、法133条以下の各番号の変更を避けるための立法技術上の措置
⇒不当性要件の解釈に直ちに影響するものとはいえない。
③立法主義が異なれば、同一の文言であってもその意義や内容に差異が生じることはあり得るというべきであり、法132条1項との文言の同一性もその解釈の決め手となるものではない。
④「租税回避」の概念についても、その意味内容は多義的であり、不当性要件の解釈の決め手となるようなものではない。
国の主張:
法132条の2の立法趣旨等に照らし、いわゆる「制度濫用基準」を採用すべきであると主張。
具体的には、「法132条の2の不当性要件については、組織再編税制における各個別規定の趣旨、目的に鑑みて、ある行為又は計算が不合理又は不自然なものと認められる場合をいい、租税回避の手段として組織再編成における各規定を濫用し、税負担の公平を著しく害するような行為又は計算がこれに当たる」と主張。
本判決:
同条の立法趣旨に照らし、同条の不当性要件の解釈につき、制度濫用基準の考え方を採用する旨を明確に示した。
●濫用の有無の判断に係る考慮事情
濫用の有無の判断に当たっては、
①行為・計算の不自然性と
②そのような行為・計算を行うことの合理的な理由となる事業目的等の有無
との2点を特に重視して考慮すべきである。
~
経済合理性基準の具体的な内容に係る通説的見解とされている「(行為・計算が)異常ないし変則的で租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」に含まれている二つの要素を、組織再編成の場面に即して表現を修正し、特に重要な考慮要素として位置づけたもの。
~
制度濫用基準の考え方を基礎としつつも、その実質において、経済合理性基準に係る通説的見解の考え方を取り込んだもの。
●濫用の有無の判断における具体的な観点
「制度の濫用」の意味内容について、最高裁H17.12.19:
企業が外国税額控除制度を濫用した事例につき、当時の法人税法69条を限定解釈して同条の適用を否定したもの。
「本件取引は・・我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様で利用して納税を免れ、我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上、この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するために、取引自体によっては外国法人税を負担すれば損失が生ずるだけであるという本件取引をあえて行うというものであって、我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものというほかない。そうすると、本件取引に基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは、外国税額控除制度を濫用するものであり、さらには、税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。」
本判決が、濫用の有無の判断において、
①組織再編成を利用して税負担を減少させる意図(租税回避の意図)と
②組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものであること(趣旨目的からの逸脱)
をその要素としているのは、上記平成17年判決の説示における「制度の濫用」の評価の基礎とされた内容が参考にされたもの。
判例時報2300
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
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