宅建業法30条2項本文の公告がされなかった時の営業保証金の取戻請求権の消滅時効の起算点
最高裁H28.3.31
<事案>
平成10年3月31日をもって宅建業の免許の有効期間が満了したXが、宅建業法25条1項に基づき供託した営業保証金につき、同25年9月20日、同法30条1項に基づき取戻請求⇒東京法務局供託官から、本件保証金の取戻請求権の消滅時効が完成しているとして、却下する旨の決定⇒Y(国)を相手に、本件却下決定の取消し及び前記取消請求に対する払渡認可決定の義務付けを求める。
<規定>
宅建業法 第30条(営業保証金の取戻し)
第三条第二項の有効期間(同条第四項に規定する場合にあつては、同項の規定によりなお効力を有することとされる期間を含む。第七十六条において同じ。)が満了したとき、第十一条第二項の規定により免許が効力を失つたとき、同条第一項第一号若しくは第二号に該当することとなつたとき、又は第二十五条第七項、第六十六条若しくは第六十七条第一項の規定により免許を取り消されたときは、宅地建物取引業者であつた者又はその承継人(第七十六条の規定により宅地建物取引業者とみなされる者を除く。)は、当該宅地建物取引業者であつた者が供託した営業保証金を取り戻すことができる。宅地建物取引業者が一部の事務所を廃止した場合において、営業保証金の額が第二十五条第二項の政令で定める額を超えることとなつたときは、その超過額について、宅地建物取引業者が前条第一項の規定により供託した場合においては、移転前の主たる事務所のもよりの供託所に供託した営業保証金についても、また同様とする。
2 前項の営業保証金の取りもどし(前条第一項の規定により供託した場合における移転前の主たる事務所のもよりの供託所に供託した営業保証金の取りもどしを除く。)は、当該営業保証金につき第二十七条第一項の権利を有する者に対し、六月を下らない一定期間内に申し出るべき旨を公告し、その期間内にその申出がなかつた場合でなければ、これをすることができない。ただし、営業保証金を取りもどすことができる事由が発生した時から十年を経過したときは、この限りでない。
民法 第166条(消滅時効の進行等)
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
民法 第167条(債権等の消滅時効)
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
<原審>
Xの本件却下決定の取消請求を棄却し、本件保証金の払渡認可決定の義務付けの訴えを却下すべきものとした。
Xは、上告受理申立て
<判断>
宅建業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において、同条2項本文所定の公告がされなかったときは、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該事由が発生した時から10年を経過した時から進行するものと解するのが相当。
本件の事実関係等によれば、本件取戻請求権の消滅時効が完成していないことは明らか。
⇒Xの請求をいずれも認容。
<解説>
●消滅時効の起算点等
消滅時効の起算点を定める民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味する。
but
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げられるものではないと解されている(ex.同時履行の抗弁権が付着している債権等)
法律上の障害の除去につき債権者の行為と一定期間の経過が必要な場合(ex.返済期を定めない消費貸借契約の貸主の返還請求権(民法591条1項)等)には、当該債権者の行為が可能となった時点からさらに前記一定期間が経過した時から消滅時効が進行。
債権者の意思により除去可能な法律上の障害であっても、債権者に法律上の障害を除去する行為を要求することが契約等の趣旨に反する場合には、当該法律上の障害がなくなるまで消滅時効は進行しない。
以上判例
●営業保証金制度の趣旨等
営業保証金制度:
営業上の取引による債務の支払を担保するための保証金であり、宅建業者の営業活動の社会的安全を確保するために、営業の開始に当たって供託所に供託される金銭(最高裁)
宅建業法30条2項本文の取戻公告及び同項ただし書の趣旨:
①供託されている営業保証金について還付請求権を有している者がいる場合に、その者の知らない間に営業保証金の取戻しが行われてしまうことは、その者が営業保証金から損害を賠償してもらう機会を失わせることになる⇒還付請求権を持っている者に対しては、その権利を実行する機会を与えておいて、その機会に権利を行使しない場合にのみ取戻しを認める(=営業保証金の取戻公告)
②営業保証金を取り戻す事由が発生してから10年を経過したときは、取引の相手方の有していた債権はほとんど時効となり消滅する⇒公告を要しないで取り戻すことができる。
●判決要旨について
営業保証金の性質⇒同項本文の規定は、宅建業者であった者等が義務的に又は原則的になすべき行為を定めたものではなく、むしろ、宅建業者であった者等が早期に営業保証金の取戻請求を行う場合において、還付請求権者の権利行使の機会を確保するために履践すべき手続ないし要件を定めたものにすぎない
⇒同項本文所定の手続に基づく取戻請求の方法と、同項ただし書所定の期間経過による取戻請求の方法との間に優先関係はなく、宅建業者であった者等が自由な判断により選択することが可能なものとして予定されているものとみるのが相当。
①取戻公告をすることなく取戻請求をする場合に、宅建業者であった者等は取戻事由が発生すれば直ちに公告期間を最短の6か月と定めて取戻公告をすることができることを理由として、取戻事由の発生時から6か月を経過した時から取戻請求権の消滅時効が進行すると解することは、前記の選択を宅建業者であった者等の自由な判断に委ねた宅建業法30条2項の趣旨に反する。
②このように解さなければ、同項ただし書所定の期間経過による取戻請求の方法が制度上予定されていることは同項の規定の文理に照らし明らかであるにもかかわらず、当該取戻請求をなし得る期間が僅か6か月に限定され得ることになり、不合理。
(民法改正法案においては、民法166条1項の消滅時効期間は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間(1号)、又は、権利を行使することができる時から10年間(2号)⇒同法案が施行されれば、原審やYが前提とする解釈の下では、消滅時効の中断等がない限り、同項ただし書に基づく取戻請求は事実上不可能になる。)
⇒
宅建業法30条1項前段所定の事由が発生した場合において、同条2項本文所定の公告がされなかったときは、営業保証金の取戻請求権の消滅時効は、当該事由が発生した時から10年を経過した時から進行するものと解するのが相当。
判例時報2301
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