フランチャイズ契約終了後同契約に基づく営業禁止を求めることが信義則違反にあたるとされた事例
東京地裁H27.10.14
<事案>
15年間続いた時計店のフランチャイズ契約(「本件契約」)について、Y(フランチャイザー)から解約申入れを受けたX(フランチャイジー)が、契約終了後に約定の競業避止義務を負わないことの確認を求めた事案。
・・15年後、XがショッピングモールBに自営店の新規出店を申し込んだところ、Yは、契約違反による解除ではなく、約定の任意解除権に基づき本件契約の解約を申し入れるとともに、契約終了後2年間はショッピングモールAで自営も含め同一の営業をしてはならない義務がある旨をXに通知。
Xが、ショッピングモールAの店舗を改装して自営店を開いた⇒YがXに対し営業禁止の仮処分を申し立てた⇒その審理中に、XがYに対し本件訴訟を提起。
本件条項:本件契約を補完する覚書での「Xは、本件契約終了以降2年間は、自営も含め、同一商業施設で、同一の営業をしていはならないものとする」との規定。
<争点>
①本件条項はYの解約申入れの場合に適用されるか
②本件条項は優越的地位の濫用によるものとして無効か
③本件条項を本件の解約に適用することが信義則に反するか
争点③について
Xの主張:
XがYの「Yシステム」というノウハウを使わずとも時計店を営むことは可能であるのに、YはXのショッピングモールBへの新規出店計画に端を発して一方的に本件契約を解約したのであり、XがショッピングモールAで営業できなくなれば経営が成り立たなくなるおそれがある⇒本件条項を適用することは信義則に反する。
Yの主張:
Xの時計店経営はYの「Yシステム」に基づくものであるのに、XがショッピングモールBへの新規出店についてYの許可を得ようとしなかったこと等により、信頼関係が破壊されたため本件契約を解約⇒本件条項を適用することは信義則に違反しない。
<判断>
●争点①について、本件条項はYの解約申入れの場合にも適用される
●争点③について
フランチャイズ契約が終了した場合に契約上課される競業避止義務は、フランチャイズシステムの顧客及び商圏を保全するとともに、営業秘密を保持するという目的において、合理性を有する。
他方、フランチャイジーの営業の自由を直接的に制約するものであるから、その制約の程度や契約終了の経緯等に照らし、これを主張することが信義則に反する場合がある。
Yの主張する「Yシステム」には、Yの商標等、Yプライベートブランドの時計及びY物流センターを経由した仕入れ以外に、保護に値するYのノウハウが含まれているとは認められないし、Xが「Yシステム」を用いた時計店をショッピングモールBに出店しようとしたものとも認められない
⇒Xに解除事由となるべき契約違反が存在したとはいえない。
それなのに、Yの解約申入れにより本件契約が終了したという経緯を踏まえると、その後のYのショッピングモールAにおける商圏を保全すべき正当性は乏しい。
他方、ショッピングモールAにおけるXの時計店の営業が2年間も禁止されれば、Xは耐え難い経済的損失を被ることになる。
⇒
Yが本件条項に基づきXに対してショッピングモールAにおける時計店の営業禁止を認めることは、信義則に違反し許されない。
<解説>
フランチャイズ契約終了後の競業避止義務は、①顧客及び商圏を保全するとともに②営業秘密を保持するという目的において合理性を有する。
but
フランチャイジーの営業の自由を直接的に制約
競業避止義務を主張することが信義則に違反するかどうかは
①顧客及び商圏の保全並びに②営業秘密の保持という競業避止義務の必要性(フランチャイザー側の事情)と
③競業避止義務による制約の程度及び④契約終了の経緯という競業避止義務の相当性(フランチャイジー側の事情)とを考慮して判断すべき。
②の営業秘密の保持が問題になる事案:
不正競争防止法が、「不正競争」及び「営業秘密」を定義し(2条1項、6項)、差止請求権や損害賠償請求権の要件を定めること(3条、4条)を通じて、事業者間の公正な競争を確保しようとしている(1条)ことも念頭に置き、営業秘密の存在を主張する側がこれを具体的に主張立証する努力をする必要。
本件は、①②の両方が問題となったが、
「Yシステム」に含まれるノウハウの具体的な内容及び有用性が明確に主張立証されなかったこと、
本件契約の解約に関してXに帰責性があったとはいえないこと
⇒営業禁止を求めることが信義則に反すると判断。
判例時報2301
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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