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2016年9月 6日 (火)

全国弁護士協同組合連合会理事長名義の保証書をもって保証金に代えることの許可

東京高裁H27.5.19(①事件)
東京高裁Hk27.12.10 (②事件)    
 
<事案>
保釈保証金納付方法の変更決定に対する検察官申立てにかかる抗告審の決定。
 
保釈保証書に関しては、近年、弁護士協同組合連合会(全弁協)が保釈保証書発行事業の運用を開始。
その概要は、全弁協が、所属員(弁護士)を通じ、被告人の親族や知人(保証委託者)の委託を受けて理事長名義の保釈保証書を発行するもの。

保証委託者は、保証金額の2%に相当する金額(最低金額1万円)を手数料として支払い、また、保証金額の10%に相当する金額自己負担金として預託。 
 
<規定>
刑訴法 第93条〔保釈保証金、保釈の条件〕
保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。
②保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。
③保釈を許す場合には、被告人の住居を制限しその他適当と認める条件を附することができる。
 
刑訴法 第94条〔保証金納付の手続〕
保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。
②裁判所は、保釈請求者でない者に保証金を納めることを許すことができる。
③裁判所は、有価証券又は裁判所の適当と認める被告人以外の者の差し出した保証書を以て保証金に代えることを許すことができる。
 
■①事件 事案 多数の薬物犯罪の事案。 
 
<原審(受訴裁判所)> 
平成27年5月1日、保証金額を合計500万円と定めて被告人の保釈を許可(同日、保釈許可決定に対する検察官抗告も棄却)。
その後、保証金が納付されないまま推移し、同月15日、弁護人から保証金額500万円のうち300万円について全弁協発行の保証書による代納許可の申出⇒原審は、同申出のとおり、保釈保証金納付方法の変更を許可(原決定)

検察官は、原決定に対し、抗告申立て。
 
<判断> 
刑訴法93条1項が保釈に際し保証金額を必要的に定めることとしているのは、一定の取消事由が生じた場合には保釈保証金が没取されるとの威嚇により、被告人の出頭の確保とともに罪証隠滅行為を防止するという担保機能を持たせるため。
そのことは保釈保証金の納付方法についても同様。
納付方法の変更には同担保機能が保たれるかどうかを考慮してなされる必要がある。

①原審は被告人自身やその家族が拠出する500万円の保釈保証金が必要と判断として保釈を許可し、保釈許可決定に対する抗告審もそれを前提に保釈許可決定を是認したと解されるのに、保釈許可決定後の特段の事情の変更がない、②意見書を見ても前記担保機能が保たれることについての言及がない、③事案の内容、前科関係及び被告人に対する求刑意見から相当長期の実刑は免れない状況にある

保釈保証金のうち6割にも当たる部分を全弁協発行の保証書による納付方法に変更することは、被告人の出頭確保及び罪証隠滅の防止のための担保機能を著しく損なうことに帰する。

原決定を取り消し。
 
■②事件 事案 3件の侵入盗(住居侵入、窃盗) 
 
<判断>
①被告人については、保釈保証金によって抑止すべき逃亡のおそれ自体が特に高いものとは言えないこと、②保証委託者は情状証人として出廷した被告人の雇用主であるところ、 全弁協が保証書記載の金額を納付したときは、同雇用主が全弁協等からの求償に応じる義務が生じることになる⇒被告人に与える心理的負担や経済的威嚇については、被告人が雇用主から借金をして保釈保証金を現金で納付する場合とさほどの違いはないこと、③雇用主と被告人との間には相当な信頼関係が存することがうかがわれる

雇用主の被る経済的損失は被告人にとっての心理的負担や経済的威嚇として十分である。
 
<解説>
保釈実務では日本保釈支援協会が運営する保釈保証金立替システムも広く利用されているところ、②事件決定の考え方を敷衍すると、同システムを利用し、被告人の親族や知人等が申込人となって現金で納付する場合と比較しても、さほどの違いはないということになるか。

判例時報2298

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