特定秘密の保護に関する法律案の立法過程における内閣情報調査室と関係省庁との協議に係る行政文書の開示請求
名古屋地裁H27.10.15
<事案>
Xが、内閣情報官に対し、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)に基づいて、秘密保全法制に関する関係省庁との協議に係る行政文書の開示を請求⇒同請求に係る行政文書の一部を開示し、その余の部分を不開示とする旨の各決定⇒不開示部分に係る各情報を不開示とした部分の取消しを求めた事案。
開示を請求する行政文書の名称等:
「秘密保全法制に関する法令等協議、法令以外の協議(行政文書ファイル管理簿・内閣情報調査室分)に綴られた文書」
本件開示請求に係る対象文書が著しく大量⇒情報公開法11条に基づき2回に分けて、本件開示請求に係る行政文書の一部を開示し、その余の部分を不開示とする旨の決定。
不開示部分:
①個人の氏名及び所属が記載されている部分
②秘密保全法制に関する関係省庁相互間における審議、検討又は協議の具体的な内容が記載されている部分
③公にすることを伝達することなく諸外国の行政機関等から入手した情報が記載されている部分
④内閣情報調査室の班以下の業務体制が記載されている部分
<規定>
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 独立行政法人等、地方公共団体が経営する企業又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
<Yの主張>
Y(国)の主張:
本件各文書の不開示情報について
①我が国の外交機密の具体的な項目が列挙されている
②我が国の懸案事項に関する概念を整理したものが記載されている
③相手国の政府から受領した各種情報への評価等が記載されている
④公にすることを伝達することなく諸外国の行政機関等から入手した情報が記載されている
⑤秘密取扱者適格性確認制度の具体的な内容が記載されている
⑥防衛省における防衛秘密の具体的な運用に関する内容が記載されている
⑦他国との意見交換に関する具体的な内容が記載されている
⑧情報保護協定等によって他国から提供される情報のうち、我が国の特定秘密に該当し得ると考えられる事項についての例示及び例示に対する安全保障上の評価等が記載されている
⇒
情報公開法5条3号又は6号所定の各不開示情報に当たる
<争点>
①本件各不開示情報にYが主張する内容が記録されているか否か
②本件各不開示情報の中にYが主張する内容が記録されていると認められた場合において、それらの情報が情報公開法5条3号、6号所定の各不開示情報に該当するか
<判断>
●情報公開法5条3号、6号所定の不開示情報の有無に関する判断の枠組み:
同条3号の趣旨及び文言
⇒裁判所は、当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の判断が、合理的なものとして許与される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであり、行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えるものであると認められる場合に限り、裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったものとして違法になると解するのが相当。
一般に、国の安全等に関する正確かつ詳細な情報は専ら行政機関の長の側に属している⇒
Yにおいて、事案に応じ、一般的・類型的にみて、当該情報が同号に掲げる国の安全等の確保に関するものに当たることを推認するに足りる事情を立証する責任を負う。
Yの立証により、当該情報が開示された場合に、不開示の理由とされた、我が国の安全が害されるおそれなどがあることが一般的・類型的にみて肯定されるような場合には、Xにおいて、当該処分につき行政機関の長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったことを基礎付ける具体的事実について証明することを要する。
情報公開法の構造や同法5条6号の趣旨
⇒不開示処分をした行政機関の長の所属する行政主体であるYが、当該行政文書には同号所定の不開示事由があることを主張立証する必要があるものと解することが相当。
●本件各文書の性質やその作成経緯、不開示部分の前後の文脈等
⇒不開示部分には、Yが主張する前記①ないし⑦の事項が記載されているものと推認することができる。
これらの不開示部分を公にすると、情報公開法5条3号が定める「国の安全が害されるおそれ」や「他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ」があると判断した内閣情報官の判断が、社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えたものということはできず、内閣情報官がした判断には同号所定の「相当の理由」があるものと認められる
⇒
これらの不開示部分は、同号所定の不開示情報に該当し、本件各不開示情報は、いずれも同号所定の不開示情報に該当する。
⇒
本件各不開示情報の同条6号所定の不開示情報該当性について判断するまでもなく、本件決定のうち本件各不開示情報を不開示とした部分は適法。
判例時報2301
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