政務活動費を公益社団法人の運営に充当⇒不当利得返還請求を求める住民訴訟(肯定)
東京地裁H28.3.22
<事案>
当時1人会派であった中野区議会議員が平成25年度に交付を受けた政務活動費の一部を東京青年会議所の運営費22万3000円に支出したことが、中野区議会政務活動費の交付に関する条例5条に定める政務活動費を充てることができる経費に該当しない⇒中野区の住民である原告らが、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、被告である中野区長に対し、当該支出につき当該会はに不当利得返還請求及び遅延損害金の請求をするよう求めた事案。
<規定>
地方自治法 第100条〔調査権等〕
⑭普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
一 当該執行機関又は職員に対する当該行為の全部又は一部の差止めの請求
二 行政処分たる当該行為の取消し又は無効確認の請求
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
<解説>
●裁判所の判断の枠組み
政務活動費の名目で支出された経費の適法性を争点とする事案に対して、裁判所は、まず、地方自治法100条14項が、議員又は会派の政務活動に資するために必要な経費の一部として政務活動費を交付する旨を定めるにとどまり、具体的な政務活動費の交付の対象、額及び交付方法を各地方公共団体の実情等を考慮してその裁量判断によって条例で定めうるとしたもの。
これを受けて制定された条例では政務活動費は政務活動に要する経費に充てることができる旨を定めるとともに政務活動費を充てることができる経費支出についての具体的な指標、いわゆる使途基準が各議会において通例設けられており、かかる使途基準が政務活動において一般的に生じるであろう項目を例示し政務活動費を議員が使用するときの具体的な経費を類型化して示している
⇒
裁判所はこれを法100条14項の趣旨に合致した基準であると認めたうえで、政務活動費がこうした使途基準に従って使用されることを要求。
仮に使途基準に反した経費に充てた場合に、当該議員又は会派は当該地方公共団体に対して不当利得返還債務を、
また議員又は会派に故意又は過失があるときは不法行為よる損害賠償債務を負う
とする判断の枠組み。
この枠組みにおいて、政務活動費を充てることができる経費に該当するというためには、問題となった行為ないし活動が、その目的や性質に照らして議員としての政務活動との間に合理的関連性があるか否かを基準に個別的に審査するのが一般的。
~
使途基準に掲示された経費はあくまで政務活動費に充てることができる例示であると捉えて、当該支出の適法性を個別具体的に審査。
<判断>
本件手引きに定める留意事項はその内容に照らして合理的なものであるとして、それを前提に、当該支出が本件条例別表のみならず政務活動費の手引き(本件手引き)に則したものであることを要するとした。
本件手引きに認められた具体的経費項目である「研究研修費」、「広聴費」等に本件支出である青年会議所の運営費及び年会費事態について記載がないうえ、「年会費を支払わなければ、本件法人が実施する研修会等を受講することができなかったとしても、年会費は研究会又は研修会に参加するために要する経費(受講費用)や会派として地域団体の会合に出席する場合の会費相当額そのものではない」⇒研究研修費や広聴費と同視することはできない。
「その他の経費」にも該当しない。
<解説>
本件手引きのような支出の指針となる自主的な内規は法規範性を有しないとされ、問題となる支出の使途基準適合性の参考とされるにすぎないとされている(大阪地裁H27.4.8)。
but
本判決は、かかる内規も経費支出の適法性の基準として位置づけ、それを厳格に適用した事案としての意義がある。
判例時報2299
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