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2016年9月30日 (金)

傷害致死被告事件の正当防衛事案(控訴審)

東京高裁H27.7.15      
 
<事案>
傷害致死被告事件について、
裁判員裁判による第一審:過剰防衛
控訴審:正当防衛の成立を認め、事実誤認を理由に第一審判決を破棄し、無罪判決。
 
<規定>
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

刑訴法 第382条〔事実誤認と判決影響明白性〕
事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
 
<解説・判断>
●量的過剰と「防衛行為」の一体性 
過剰防衛には:
A:急迫不正の侵害の継続中に行われた防衛行為自体が必要な程度を超えた場合(質的過剰)と
B:侵害終了後になお反撃行為が行われた場合(量的過剰

Bについては、急迫不正の侵害に対し、正当防衛に当たる暴行(「第一暴行」)及びこれと時間的、場所的に連続して行われた暴行(「第二暴行」)を、分析的に評価するか、それとも、全体的に評価するかという2つの考え方。
判例は、全体的評価の手法が定着してきている。

本判決:
正当防衛にあたるかどうかは、その行為がなされた時点での状況により判断すべきものであるとした上で、原判決は被告人の顔面殴打行為と踏み付け行為を分断しているが、両者は倒れ込む前の被害者の攻撃に対する、ごくわずかな時間でなされた断絶のない一連一体の反撃行為とみるべきであり、頭部踏み付け行為も、防衛の程度を超えないものとして、正当防衛に当たる
 
●「事実誤認」の意義 

「事実誤認」(刑訴法382条)の意義について、
最高裁H24.2.13は、「第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らし不合理であることをいう」とし、「控訴審が第一審判決に事実誤認があるというためには、第一審判決の事実認定が論理則、経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要である」と判示。

本判決:
正当防衛にあたるかどうかは、その行為がなされた時点での状況により判断すべき。
倒れ込む直前においては、被害者は、被告人に対し、執ような攻撃を加えていた⇒被告人の顔面殴打行為により、前屈みになって倒れたとしても、すぐに体勢を立て直して攻撃してくることが予想される状況にあったとみるのが経験則に適ったもの。
③被告人は被害者が完全に倒れ込んだのを確認してから踏み付け行為に及んだものではなく、倒れ込む途中の段階で踏み付け行為に及んだもの⇒被告人の顔面殴打行為と踏み付け行為は、倒れ込む前の被害者の攻撃に対する、ごくわずかな時間でなされた断絶のない一連一体の反撃行為とみるべき。

被害者が倒れたことから、被害者は被告人を攻撃できるような状態ではなく、被告人もそのことを認識し上で被害者の頭部を足で強く踏み付けたとした原判決は、論理則、経験則等に反した不合理なものであり、是認することはできない。

頭部踏み付け行為によって外傷性くも膜下出血が生ずる可能性については、弁護人及び検察官がそれぞれ請求する医師の各証人尋問を実施した上、その可能性はないと判断。

判例時報2301

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