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2016年9月26日 (月)

民法910条に基づく価額支払請求の場合の遺産の価額算定の基準時・履行遅滞となる時期

最高裁H28.2.26      
 
<事案>
Aの相続開始後認知によってその相続人となった原告(X)が、Aの子であり、Aの遺産について既に遺産の分割をしていた被告ら(Y)に対し、民法910条に基づき価額の支払を求める事案。
同条の定める価額の支払請求をする場合における遺産の価額算定の基準時及び価額の支払債務が遅滞に陥る時期が争われている。
 
<規定>
民法 第910条(相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権)
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

民法 第784条(認知の効力)
認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者が既に取得した権利を害することはできない。
 
<一審・原審>
①本件規定に基づく価額支払請求の遺産の価額算定基準時を原告が価額の支払を請求した平成23年5月6日としたうえで評価し(評価額は総額7億9239万5924円)、Xの法定相続分を8分の1としてこれに応じた額を相続人のうち価額支払義務が問題となるYらの員数(3名)で除した各3301万6496円(評価額の24分の1)の請求を認容し、
②本件規定に基づく価額の支払債務は、履行の請求を受けた時に遅滞に陥るものとして、Xが価額の支払を請求した日の翌日である同月7日からの遅延損害金の請求を認容すべきものとした。 
   
Xが上告受理申立て:
①価格算定の基準時は遺産分割時とすべき
②遅延損害金の起算日も遺産分割時とすべき

Yらが附帯上告受理申立て:
遅延損害金の起算日を事実審口頭弁論終結日の翌日とすべき
 
<判断>
両事件を受理した上で、上告及び附帯上告を棄却。 
 
<解説>
●民法910条:
相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権を定めている。 

●価額支払請求権の遺産の価額算定の基準時
A:遺産分割時
○B:価額の支払を請求した時点(多数説)
C:事実審の口頭弁論終結時

本判決:
遺産の価額算定の基準時に関して、「相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は、価額の支払を請求した時」として、価額の支払請求時とする見解。

民法910条の位置付けについて、「相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには、当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって、他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものである」

認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに、その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが、当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである」

例えば遺産の価額算定基準時を遺産分割時に固定するとなると、価額の支払請求が問題となるまでの期間に生じた価額の上昇又は下落により、認知された者又は他の共同相続人のいずれか一方のみに利益や損失を生ずることとなって当事者間の衡平を欠く事態となる。

遺産分割の場面においても、実際に分割を実現する時点の評価に基づいて行うべきであるとしており、実務上も、原則として、分割時における遺産評価に基づいて分割が行われている。

例えば、相続開始後、他の共同相続んがその意思に基づき遺産を処分した場合:
遺産の価額算定の基準時を価額の支払請求時とすることで、遺産の代償財産をもって評価するなどの柔軟な解釈をとることが可能。

遺留分減殺請求権者の価額弁償請求については、(受遺者から民法1041条1項の規定による価額弁償の意思表示を受けた遺留分権利者が受遺者に対し価額弁償を請求する旨の意思表示をした場合において、当該遺留分権利者が現物返還請求権に代わる価額弁償請求権を確定的に取得することになる)弁償金の支払を請求した日の翌日が遅延損害金の起算日となるが(最高裁H20.1.24)、本件規定に基づく価額の支払請求も同様の利益状況にあることを意識したものと思われる。

このように解することで、認知された者としては直ちに価額の支払を請求するとともに、他の共同相続人としても早期にその支払に応じることの動機付けとなり(仮に、事実審の口頭弁論終結時にならなければ支払うべき金額が確定せず、遅延損害金も発生しないと解する場合には、他の共同相続人としては、支払に対する動機づけを欠くことになる)、紛争が長期化することを避けることができるようになる。
 
●価額の支払債務が履行遅滞となる時期 
民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は、期限の定めのない債務履行の請求を受けた時に遅滞に陥る。
 
相続回復請求権
A:相続物を侵害から包括的に回復することを目的とする、個別的な物権的請求権とは異なる単一の特別の請求権とする説(独立権説)
○B:相続財産についての個別的請求権の集合であり、相続権の侵害を原因として生じ、かつ、消滅時効にかかる点で特色があるにすぎない権利と解する説(集合権説)
判例はBの集合権説。 
 
●管轄 
本件規定に基づく価額の支払請求については
○A:通常の民事訴訟の手続によるべきか
B:家庭裁判所の審判手続によるべきか

家事事件手続法39条(審判事項)は、「家庭裁判所は、この編に定めるところにより、別表第1及び別表第2に掲げる事項並びに同編に定める事項について、審判をする」

家庭裁判所が家事審判の手続で審判をする事項を限定列挙

同法は、別表第1及び別表第2に民法910条の価額の支払請求を掲げていない⇒通常の民事訴訟の手続によることを前提とする。
 
●「価額の支払請求」
遺産の価額算定の基準時となるとともに、価額の支払債務が履行遅滞となる基準となる重要な概念。
何ら限定なく単に「被相続人○○の遺産の分割を請求する」といった程度ではこれに当たらないと思われる。

判例時報2301

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 
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