管理監督者、付加金、損害賠償、素因減額等
京都地裁H28.4.12
<事案>
Xは、宗教法人Yとの間で労働契約を締結し、Yが運営する宿泊施設で調理の業務に従事。
Xが、Yに対して、時間外手当が支払われていないとして、時間外手当及び付加金の支払を求め、異常な長時間労働を強いられたことにより精神疾患を発症し、就労不能となったとして、損害の賠償を求めるなどしたもの。
<Yの主張>
Xは、時間外手当及び付加金請求については、管理監督者に該当。
損害賠償請求については、Xの精神疾患は、部下の調理人へのパワーハラスメントを理由としてYから処分を受けるのではないかとの不安感等に起因するもので、長時間労働とは無関係。
Xの脆弱性や健康保持義務違反による素因減額又は過失相殺。
<規定>
労基法 第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
<判断>
①Xが料理長の地位にはあったが宿泊施設内で料理の業務を担当していたにすぎず、Xが統括していた部下の人数は5人程度と極めて少数であった
②メニューの決定や食材の選択といった判断権限は調理の業務を担当する専門職としては当然の業務内容であり、かえって、出費を伴うものについては上長又はYの決裁を得る必要があった
⇒Xが経営上重要な事項の決定等に関与する立場にあったとは到底いい難い
③Xを含む調理人には、Yから前記施設で提供される料理の調理を行うべき包括的な指揮命令がなされていたというべきで、Xが出退勤時刻を判断できた面があるとしても、それは限られた範囲内において、出退勤時刻を調整することができたという意味にすぎず、労働時間について自由裁量を有していたとはいえない
⇒
Xが管理監督者に該当するとは認められない。
⇒
時間外手当合計1026万円余の支払を命じるとともに、極めて過酷ともいうべき長時間労働を強いていながら、多額の時間外手当を労基法に違反して支払っておらず、労働時間規制を軽視する態度は顕著であって、同法違反の態様は悪質⇒同法上認め得る付加金の全額に当たる677万円余の支払を命じている。
損害賠償請求に関する判断:
①Xが精神疾患を発症するまでの約1年3か月において、Xの時間外労働時間数は、ほぼ毎月140時間を超え、最も多い月では約240時間にも及んでいる
②平成23年には、349日間の連続勤務を含む356日もの勤務を行い、平成24年には、最後の出勤日までの240日のうち228日もの勤務を行っている。
③調理人の人数は、最大でも3名で、X1名の時期もあった
④前記施設の月間宿泊者数は、平均約700人で、最大約1100人にも及んでいる
⑤レストラン営業の月間提供食事数は、1000食を超える月が半数以上あり、約3000ないし3500食に及ぶ月もあった。
⇒
Xの業務が強い心理的負荷を生じさせる過重性を有していたとみることができると指摘し、Yの安全配慮義務違反ないしは注意義務違反及びこれとXの精神疾患との因果関係を肯定。
Xが、同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れる同疾患への親和性、脆弱性等の特性等を有していたとはいえない。
Xの健康保持義務違反も認められない。
⇒
素因減額及び過失相殺のいずれも否定。
⇒
Yに対して、損害合計2011万円余の支払を命じた。
<解説>
管理監督者の該当性の判断:
本判決は、労基法41条2号が管理監督者につき労働時間規制を適用しないこととした趣旨から、
①経営上重要な事項の決定等に関与していたか否か
②労働時間に関する裁量があったか
③職務内容や職責等にふさわしい賃金等の待遇を受けていたか
などの事情を総合的に考慮して判断するとの一般論を述べつつも、
特に①②の点を重視した具体的判断。
付加金の支払を命じるか否か、命じるとしてどの程度の金額とするかについては、裁判所の裁量に委ねられるものと解されている。
本判決は、対象額全額の付加金支払を命じるに当たっての主たる理由として、業務が異常に長時間かつ過重な内容であり、それにもかかわらず時間外手当を一切支払っていないなど、労基法違反の態様が悪質であることを挙げている。
損害賠償について、労働時間と業務内容を認定し、量的側面と質的側面から業務の過重性を検討。
その後の判示内容からみても、業務の過重性いかんが事案の結論を左右する分水嶺となると捉えている。
判例時報2300
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