自殺した中学生のいじめに関するアンケートの情報公開条例に基づく情報開示
鹿児島地裁H27.12.15
<事案>
鹿児島県出水市内の市立中学校に通っていた生徒の祖父であるXが、本件生徒が自殺したとされる事件に関し、出水市教育委員会が組織した事故調査委員会が同中学校の全校生徒を対象としたいじめに関するアンケート調査について、出水市情報公開条例に基づき、実施機関である出水市教育委員会に対して、本件解答用紙(「本件回答用紙」)及び本件アンケートの結果をまとめたもの(「本件アンケートまとめ」)の各写し(いずれも固有名詞をマスキング処理したもの。併せて「本件文書」)の開示請求⇒全部不開示とする本件処分
⇒本件処分の取消し及び本件文書の開示決定の義務付けを求めたもの。
<Yの主張>
本件文書に記載された情報は、本件条例7条1号前後及び後段等の不開示情報に該当。
<判断>
●本件回答用紙に記載された情報は、本件条例7条1項前段に該当し、部分開示の余地もない。
⇒
本件回答用紙の写しに対する処分の取消しの請求については棄却し、開示決定の義務付けの請求については却下。
●本件アンケートまとめについて
回答者の学年、学級及び氏名の記載部分については本件条例1号前段に該当。
「あなた自身について何か伝えたいことや相談したいことがありますか。」という質問に対する回答部分については、回答者自身の気持ちや悩みが記載されていて、当該記載は回答者自身の人格権に密接に関連する情報。
⇒本件条例1号後段に該当。
他の質問に対する回答部分については、本件回答用紙の回答を転記したものであるから本件生徒及び他の生徒(回答者を含む。)の個人情報であり、・・・特定の生徒個人を識別させることから本件条例に7条1号前段に該当。
前記記述部分を除いた部分については本件条例7条1号前段の不開示情報に含まれないものとみなす部分開示の規定を適用すべき。
事前の説明及び承諾なく本件文書が開示されれば、
①表現の自由のうち回答したくないことを回答しない権利という消極的情報提供権が侵害され、又は
②自身の記載した回答がどのように取り扱われるかについてコントロールする、回答者の情報コントロール権が侵害されるから条例7条1号後段に該当するとの主張をいずれも排斥。
⇒
本件アンケートまとめの写しに対する処分の取消しの請求については、前記部分を除く同写し(ただし、固有名詞をマスキング処理したもので、前記記述部分及び質問○に対する回答部分を除いた部分。)を不開示としたした部分を取り消す限度で認容し、その余は理由がないから棄却。
開示決定の義務付けの請求については、同写しの前記不開示とした部分の開示決定を義務付ける限度で認容し、その余は却下。
<解説>
本判決は、①本件回答用紙が直筆で記載されていること、②本件アンケートの質問文、③本件中学校の生徒数、本件生徒の所属する学級及び部活動の人数といった客観的事実から各不開示情報の該当性を具体的に検討。
中学校が自殺した生徒の死について生徒の書かせた作文につき、同作文は公開、開示を予定して作成されたものではないから同作文を不開示とした決定は相当であるとした裁判例(東京高裁H11.8.23)。
本判決:
本件アンケート結果の回答時において本件アンケート結果を開示しないことが明示されていたとは認められないという事実関係⇒表現の自由のうち消極的情報提供権の侵害はない。
アンケート結果について情報コントロール権が及ぶ余地を残しつつ、生徒の属性や特徴等を示す記述を除くこととすれば情報コントロール権が及ぶ部分は残存しない。
いじめ防止対策推進法が施行され、いじめによる被害が生じた際に学校が調査することが求められている昨今では、その方法としてアンケート調査を実施する例がみとめられる。
判例時報2298
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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