債務者が住所の変更等の届出を怠ったために債権者から通知が到着しなかったときは通常到達すべきときに到着したものとみなす旨の合意と債権譲渡通知(適用否定)
東京高裁H27.3.24
<事案>
Y株式会社に対する約15億円の貸金債権を債権者から譲り受けたとするX株式会社が、Yに対して、本件債権の一部1000万円及び約定損害金の支払を求めた。
Yが、同債権譲渡についての通知がYに到達しておらず、この間に本件債権が時効により消滅したと主張して、Xに対して債務不存在確認を求めるとともに、本件債権を被担保債権とする抵当権の不存在確認及び同抵当権設定登記の抹消登記手続を求める反訴を提起。
Yは、平成19年7月27日、A株式会社から15億円を借り受けた。
同日、AはB株式会社に本件債権を譲渡し、Yは同債権譲渡を承諾するとともに、本件債権を被担保債権とする抵当権を設定。
その後、本件債権は、平成20年11月1日C株式会社に、同年12月8日、D合同会社に、平成24年12月10日、Xにそれぞれ順次譲渡。
Cは、平成25年3月27日、Y宛に、本件債権をDからXに譲渡したことを通知する旨の書面を内容証明郵便により発したが、Yは同年1月22日までに本店を移転してその旨の登記を了しており、移転前の旧本店所在地に宛てて送付された同通知は保管期間経過によりDに返送。
Yは本件債権についての平成20年6月5日までの利息及び元本の一部を支払ったが、同月6日から同年7月5日までの利息の支払日である同年6月5日が経過⇒Yは本件債権残元本について期限の利益を喪失。
Xは、平成25年3月4日、Yに対し、本件債権の一部である1000万円の支払を求める支払督促を申し立て、同年5月26日、支払督促正本が代表者の住所地に送達。
Yは、同年6月7日、同支払督促に対して特則異議の申立て⇒本件訴訟に移行。
本件債権に係るA・Y間の前記金銭消費貸借契約においては、Yは、住所等の届出事項に変更があったときは、直ちに債権者に対して書面で届け出ること、この届出を怠ったために債権者の通知・書類送付等が延着し又は到着しなかったときは、通常到着すべきときに到着したものとみなす旨の約定(「本件みなし到達規定」)。
<原審>
本件債権譲渡はYに到達しておらず、本件みなし到達規定が債権譲渡の通知にも適用されるとなれば、債務者には債権の帰属関係が不明確となり、二重弁済の危険が生じることとなって、取引の安全を害することになる⇒その限りで本件みなし到達規定は無効。
⇒
前記支払督促申立ては債権譲渡の通知を欠くものであるから、時効中断の効力がなく、前記競売開始申立ては時効完成(平成25年6月5日)後のものである。
⇒
Xの本訴請求を棄却。
Yの反訴請求をほぼ全部認容(債務不存在確認請求のうち本訴請求に係る1000万円の部分に限っては、確認の利益を欠くとして訴えを却下。)。
<判断>
原判決の結論を支持し、Xの控訴を棄却。
債務者の承諾とともに債務者に対する通知を債務者及び債務者以外の第三者に対する関係において対抗要件とした民法の制度は、当該債権についての債務者の認識を通じて譲渡の有無が第三者に表示されることを根幹として成立しているものであり、同認識を通じて債権についての取引の安全を確保しようとしているものと解される。
⇒その通知を発したことよりも通知が債務者に到達したことを重視すべき。
⇒
実際に本件債権譲渡通知がYに到達しておらず、これにより債務者だるYが譲渡の事実を認識するに至らなかったにもかかわらず、本件みなし到達規定により、本件債権譲渡通知がYに到達したものと解することは相当ではない。
本件みなし到達規定については、さらに、これが隔地者に対する意思表示についての民法97条1項に関する当事者間のの合意であるとしても、債権譲渡の通知にもこの規定が適用され、通知が到達していないにもかかわらず到達したものとすることは、結局のところ、債務者の認識を通じて債権の取引の安全を確保しようとする民法の規定する債権譲渡の体協要件制度の趣旨を没却することになる。
権利濫用、信義則違反の主張も否定。
判例時報2298
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