生徒へのわいせつな内容を含む多数のメール送信等の理由による教員(担任)の免職処分(否定)
東京地裁H27.10.26
<事案>
都立高校の男性教員であるXが、女子生徒Aに対し、わいせつな内容を含むメール総計845通を送信したなどとして、懲戒免職処分を受けたことにつき、処分の取消しを求めるとともに、都教委の実施した事情聴取等に違法があるとして国賠法に基づき慰謝料の支払を求めた事案。
メールの送信は勤務時間内外に行われ、メール送信の外にも、XはAに対し、ネックレス等を買い与え、現金1万円を与えるなどした。
懲戒免職処分の理由とされたのは、メール、金品の授与のほか、Aとの交際の噂が広がり保護者に不信感を与えたこと、都教委の事情聴取でXが虚偽の供述を行ったこと。
Aとキスその他の性的な関係を持ったことや交際関係にあったことは認定されておらず、処分理由ともなっていない(都教委の処分量定では、生徒とのキスや性行為は同意の有無を問わずに「免職」想到とされている。)
<規定>
地方公務員法 第13条(平等取扱の原則)
すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によつて、又は第十六条第五号に規定する場合を除く外、政治的意見若しくは政治的所属関係によつて差別されてはならない。
<争点>
①懲戒免職処分理由の存否
②裁量権の範囲の逸脱又はその濫用
③損害賠償請求の成否等
<判断>
争点①について、懲戒免職処分の理由とされた事実をすべて認定。
争点②について、判例を引用し、裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものでないかを検討。
その際、都教委が定めている処分量定へのあてはめを検討し、処分量定と異なる処分として免職を選択するときはその客観的・合理的な根拠の有無について慎重に吟味する必要がある。
本件では処分量定では「停職」に相当する事案であり、これを特に重く処分すべき事情があるとはいえない
⇒裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法である。
争点③について、違法な実質的取調べなどが主張されたが、事実が認められない、又は違法性があるとはいえない。
<解説>
人事院は国家公務員法に基づく懲戒処分について懲戒処分の指針を設けている(「懲戒処分の指針について」)。
地方自治体や教育委員会等においても、訓令、通達などの形で処分量定を定めていることが多く、本件でも都教委が定めた処分量定が存在。
すべての事案を想定した処分量定をあらかじめ定めておくことは不可能であり、事案毎の妥当性を欠くおそれもある。
⇒
前記人事院の懲戒処分の指針でも事案毎に加重又は軽減した処分をすることが予定されており、都教委が本件に適用した処分量定にもその旨定められていた。
公務員の懲戒処分については、平等取扱いの原則(地方公務員法13条)が存在し、処分量定と異なる処分をするときはこの原則との関係が問題となる。
⇒処分量定で定められた処分よりも加重して懲戒処分、特に免職処分をする場合には、慎重に検討することが求められる。
この基準に合致しない処分については、いわゆる平等原則違背等の評価がされ得るものとした裁判例(東京高裁H15.4.23)や処分量定よりも重い処分を適法とした裁判例(広島高裁H15.3.2)がある。
本件は、処分量定に定めた標準的な処分よりも加重した処分をすることにつき、処分量定上の加重事由の有無についても詳細な検討を加えた上、そのような事情は認められないとした。
判例時報2297
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