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2016年8月26日 (金)

イラン国籍を有する者に対する退去強制令書発付処分について、同処分のうち送還先をイランと指定した部分に裁量権の範囲を逸脱した違法があるとされた事例

大阪高裁H27.11.27      
 
<事案>
イラン・イスラム共和国(イラン)の国籍を有するXは、偽造旅券を行使して本邦に不法入国後、名古屋でイラン人の知人を刺殺
⇒名古屋地方裁判所で殺人及び出入国管理及び難民認定法(入管法)違反(不法在留)の罪により懲役10年の判決。
Xは服役中に、大阪入国管理局(大阪入管)入国審査官から入管法24条1号(不法入国)に該当する旨の認定・通知⇒この認定に服して口頭審理の請求を放棄(入管法47条、48条)⇒同主任審査官は送還先をイランと指定した退去強制令書発付処分(本件処分)をし、本件処分はXが仮釈放された当日に執行され、Xは入国者収容所に収容。

Xは、イランに送還された場合、本件犯行により再び処罰されて死刑に処せられるおそれがあるから本件処分は違法であるとなどと主張し、その取消しを求めて本件訴訟を提起。
 
<規定>
入管法 第53条(送還先)
退去強制を受ける者は、その者の国籍又は市民権の属する国に送還されるものとする。

2 前項の国に送還することができないときは、本人の希望により、左に掲げる国のいずれかに送還されるものとする。
一 本邦に入国する直前に居住していた国
二 本邦に入国する前に居住していたことのある国
三 本邦に向けて船舶等に乗つた港の属する国
四 出生地の属する国
五 出生時にその出生地の属していた国
六 その他の国

3 前二項の国には、次に掲げる国を含まないものとする。
一 難民条約第三十三条第一項に規定する領域の属する国(法務大臣が日本国の利益又は公安を著しく害すると認める場合を除く。)
二 拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約第三条第一項に規定する国
三 強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約第十六条第一項に規定する国
 
<主張>
Xをイランに送還することは、
①我が国の裁判所が死刑にまでは値しないと判断した罪状により、死刑に処せられる蓋然性の高い国に送還する点で憲法13条に反し、
②イラン刑法では、本件犯行に対する選択刑が死刑しかないことから、市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)6条1項・2項、7条等に違反し
③国際的二重処罰禁止の要請に違反する
などの理由により違法。 
 
<原審>
Xをイランに送還することができない事情があるとは認められず、本件処分は適法。
⇒Xの請求を棄却。 
 
<判断>
原判決を変更し、本件処分のうち送還先をイランと指定した部分を取り消し、Xのその余の請求を棄却。
 
①主任審査官は、入国審査官から入管法47条3項の通知を受け、容疑者が入国審査官の認定に服したときは退去強制令書を発付しなければならなず、この点に裁量の余地はないが、同令書に記載する送還先については合理的な裁量判断が求められる

イランの法制度の下では、殺人罪は同害報復刑の対象となる。
Xがイランに帰国した場合、本件犯行によりイランで再び起訴されて裁判が行われ、その結果、死刑に処せられる蓋然性が極めて高く、イランにおける死刑の執行方法等からすると、公開の場における絞首刑の方法で執行される可能性も相当程度ある。

③入管法53条の趣旨からすると、同条2項にいう国籍国等に「送還することができないとき」とは、送還先の国が戦争状態にあるなどの事情により事実上送還すること不可能な場合等に限らず、国籍国等に送還するときは被送還者の生命に対する差し迫った危険が確実に予想されるような場合も含まれその結果が我が国の法制度や刑罰法規の定め、刑事手続の運用等に照らして到底容認し難いものであるときは、たとえそれが送還先の国にとっては合法的な処罰であっても、前記の「送還することができないとき」に当たる

前記②の事情の下では、Xにつき入管法53条2項にいいう国籍国等に「送還することができないとき」に該当する事情がある。

大阪入管主任審査官が本件処分においてXの送還先をイランと指定したことは合理的な裁量権の範囲を逸脱したものとして違法であり、Xの請求は、本件処分のうち送還先をイランと指定した部分の取消しを求める限度で理由がある
 
<解説>
入国審査官は、引渡しを受けた容疑者が24条各号の退去強制対象者に該当すると認定したときは、速やかに理由を付した書面をもって主任審査官及び容疑者にその旨を通知しなければならなず、容疑者がその認定に服した時は、主任審査官は、速やかに51条の規定による退去強制令書を発付しなければならない(45条1項、47条3項・5項)。

退去強制令書には送還先が記載されるところ(51条)、その送還先は、国籍国を原則としつつ、国籍国等に送還することができないときは、本人の希望により、本人と一定のつながりのある国等に送還される(53条)。

判例時報2298

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